2021年6月25日

講演者:煙山優太

Speaker:Yuta Kemuyama

タイトル: レーザーアブレーション法を組み合わせた多重検出器型ICP質量分析法よるCa同位体分析に向けたCa標準試料の選定

Title: Selection of Calcium standard material for Ca isotopic analysis by laser ablation MC-ICP-MS

元素の安定同位体比は、様々な物理化学的過程を経て変化する。例えば鉱物のカルシウム(Ca)同位体比はその起源や生成過程を反映している(Matthew et al., 2014)。また、骨や歯のCa同位体比は、疾病(腎不全、糖尿病、骨粗鬆症など)に対するマーカーとして期待されている(Tacail et al., 2020)。このような応用研究の背景には多重検出器型ICP質量分析計(Multiple Collector-ICP-Mass Spectrometer : MC-ICP-MS)を用いた同位体比測定技術の向上がある。ICPは多くの元素に対して90%以上のイオン化効率を達成する強力なイオン源であり(Niu & Houk, 1996)、対象元素の拡大に大きく寄与している。また、ICPは大気圧で動作するため、様々な試料導入法が適用でき、試料形態の制約が少ない。例えば、固体試料の局所分析にはレーザーアブレーション(LA)法が用いられる。岩石試料を対象とする場合、標的鉱物と周辺鉱物を区別した分析が可能であり、同位体比データの解釈が明瞭になるという利点がある。これまでLA法を用いた局所Ca同位体分析がいくつか報告されているが、溶液試料導入法と比較して同位体分析精度が劣っており、局所同位体分析の有用性を十分に発揮できていない(例えばTacail et al., 2016)。このような背景から、高精度化のための分析手法を開発する必要がある。

ICP-MSを用いて同位体比を決定するためには、標準試料を分析してマスバイアスと呼ばれる系統誤差を補正する必要がある。したがって分析手法の確度を検証するにあたり、同位体比既知の試料が標準試料と合わせて少なくとも二種類必要となる。現在、広く利用可能なCa同位体標準試料はNIST915シリーズのみである。そこで本研究では、LA-MC-ICP-MSを用いたCa同位体分析に先駆けて、Ca標準試料の選定を行った。選定候補として四種類の炭酸カルシウム粉末試料(KOJUNDO KAGAKU, ALDRICH239215, ALDRICH795445, ALDRICH310034)を2% HCl溶液に溶解した。同位体比の値付けのため、信頼性の高い溶液噴霧による試料導入法を採用した。各試料を脱溶媒装置(ApexΩ, Elemental Scientific)と組み合わせたMC-ICP-MS(Neptune XT, Thermo Fisher Scientific)を用いて分析し、得られた同位体比はNIST915a(Ca同位体比スタンダード)で規格化したδ値で表示した。本発表では、実験結果と標準試料選定の詳細について議論する。

講演者:伊藤颯

Speaker:Hayate Ito

タイトル:イオンを添加したアモルファス氷のトポロジー的解析

Title : Topological analysis of ion-doped amorphous ice

氷のアモルファス固体には低密度アモルファス氷(LDA)と高密度アモルファス固体(HDA)が存在してこれらは圧力に対して一次相転移的な挙動をすることがわかっている。これらがもし別のアモルファス相であるとすると、これらに対応する高温での二つの液体の水(LDLとHDL)の存在と、液液臨界点の存在が予想される(第二臨界点仮説)。この第二臨界点仮説が正しいとすると水の様々な異常な物性を説明することができるが、現在のところこの第二臨界点を実験的に直接観測した例は存在しない。この二つの氷のアモルファス相の間には様々な物性の違いが知られているが、その中にイオンの溶解性が大きく異なるというものがある。イオンは水の低温での分離現象を促進し、HDL(HDA)的な領域に濃集するがLDL(LDA)的な領域にはほとんど解けないことが知られている。一方でHDA-LDAに関する構造的な知見が少ないためにこの溶解度の差はどのような構造的特徴に由来しているのか、また本当にHDA的な領域にイオンが溶けているのかはよくわかっていない。

本研究では分子動力学計算を用いて各種のイオンを少量添加したアモルファス氷を作成し、そのイオン周辺の構造や圧力によるLDA-HDA間の変化の様子などをパーシステントホモロジーという新しい計算トポロジーのツールを用いて解析し、イオン種のアモルファス構造への影響の違いなどを解析した。