2017年1月27日

Date: 4.00pm-5.30pm, Friday, 27 January 2017
Place: Room 1302, Main Chemistry Build.
日 時:2017年1月27日(金)16:00~17:30
場 所:化学本館3階講義室

Speaker: Mao Watanabe
講演者:渡邉 真央
タイトル:分光学的手法およびバイオマーカー分析による石油根源岩の熟成度の多角的解析

石油根源岩中の炭質物 (ケロジェン) は、熟成が進むにつれてグラファイト構造へと変化する。ケロジェンの熟成度指標の一つにビトリナイト反射率 (Ro) があり、広く用いられている。しかしRo を測定する上でいくつか問題点があげられる。近年、空間分解能が高く (1 μm〜)、非破壊測定が可能なラマン分光法が炭質物の温度計として活用されている (e.g. Quirico et al., 2005, Kouketsu et al., 2014) が、ラマンスペクトルによる石油根源岩の熟成度評価にも未だ課題がある。国内では火山岩が貯留岩と成りうるが、天然での短期的な加熱によるラマンスペクトルへの影響はあまり調べられていない。また石油の生産において重要な低熟成度領域のラマンスペクトルは蛍光強度がより強いために研究が進んでいない。本研究では、ラマン・蛍光スペクトルを中心に、バイオマーカー、C, N 同位体等多角的手法によりm Ro < 1 %を含む広範囲での熟成度評価法の確立を目的とした。また、貫入岩による熱の影響についても調べた。
2 坑井より得られたカッティングス (新鮎川AK-1 号井、MITI 由利沖中部)をHF 及びHCl 処理し、得られたケロジェンを樹脂に埋め込み研磨し、Ro とラマン・蛍光スペクトルを測定した。新鮎川AK-1 は1500 m-2000 m にかけて2 箇所、粗粒玄武岩の貫入がある (早稲田ら、1995)。貫入岩直下ではRo が最大値の3 %を示した。得られたラマンスペクトルのD1-, D2-バンドの強度の合計と1500 cm-1の蛍光強度の比 (D1+D2) /F を求めた。結果、Ro = 0.2-3 %で相関が見られ、ラマンスペクトルだけでは評価できないRo<1 %の領域でも評価可能な優れた指標であると言える。貫入岩の影響を受けた試料も、同じ相関が得られた。由利沖中部の試料について広い波長範囲で測定した蛍光強度は、Ro = 0.2 -0.4 %にかけて強度が大きく減少した。同じ熟成度領域で、赤外吸収スペクトルでアミド、エーテルによる吸収が観察されなくなった。蛍光強度の変化には、窒素や炭素を含む構造の変化が関わる可能性を示した。
ビチュメン(吸着分子)は有機溶媒で抽出し、GC-MS により測定した。抽出残渣からは炭素、窒素同位体比を求めた。δ13C の低下とn-アルカンの熱クラッキングに相関が見られ、短期的な加熱に起因した有機物の変化であることがわかった。また、ビチュメン中のホパン酸の立体異性体とRo=1-3 %での相関もみられ、今まであまり存在しなかった高熟成度領域でのバイオマーカーの指標となりうる。本研究で複数の測定手法の組み合わせにより、Ro = 0.2-3 %のより広範囲で有効に熟成度評価が行えるようになった。

Speaker: Yusuke Ishii
講演者:石井 優佑
タイトル:高圧下でのboehmite (γ – AlOOH) とlepidocrocite (γ – FeOOH) の構造変化

本発表では時間のためboehmiteの高圧下での構造変化のみを発表する。
水酸化物中のO-H…O結合(O-Hは共有結合、H…Oは水素結合)では、酸素間距離が短くなることで水素結合と共有結合が等価になる水素結合の対称化が起こることが知られている。高圧下では、O…O距離は減少するので高温高圧条件下である地球内部に存在する含水素物質中の水素結合は対称化している可能性が高い。しかし、含水鉱物中の水素結合が高圧下で対称化するか、また、対称化にしたがってどのような物性変化を起こすかについては未解明な部分が多い。対称化の挙動は未解明である。よって、含水鉱物中の水素結合の対称化を系統的に理解するため、金属化合物であるboehmite (γ – AlOOH)に注目した。BoehmiteはAlO6,八面体が辺共有した層があり、その間に水素結合が存在している。圧力をかけると層間距離が縮まり、水素結合が対称化することが予想される。本研究では、boehmiteの高圧下での構造変化を観察するために、X線回折、中性子回折とラマン分光法を行った。
高圧下でのX線回折パターンから、加圧に伴い、ほかの反射指数に比べて130反射指数のピークが顕著にブロード化した。これは、c軸に対して隣り合うAlO6八面体の層についてa方向に変位する積層不整が起きて、変位量が加圧によって大きくなることで説明できることが分かった。また、高圧下のOH伸縮振動のラマンスペクトルの振動数が加圧によって急速に減少しないことから、水素結合は非対称のままであり、少なくとも40 GPaまでは水素結合の対称化は起こっていないと推測できる。
本研究ではboehmiteでは加圧に伴い、積層不整が起こることが新たに分かった。積層不整がおこるため、加圧による水素結合の様式の変化については単純には議論できないが、加圧に伴う層状含水鉱物の水素結合の変化に新たな理解を提示した。