2019年5月31日

Date: 16:00-18:00, Friday, May 31, 2019
Place: 3F, Lecture room, Main Chemistry Build.
Speaker:Kota Yamamoto, Shuji Yamashita

日 時:2019年5月31日(金)16:00-18:00
場 所:化学本館3階講義室
講演者:山本康太,山下修司

講演者1:山本康太(Kota Yamamoto)
タイトル:安定同位体メタロミクスのためのイオン交換分離法の検討
Title: Examination of ion exchange protocol for stable isotope metallomics
要旨:同位体効果と呼ばれる主に質量数の差に依存した反応効率の違いにより、物理化学反応を通じて反応物と生成物で構成元素の安定同位体組成は変化する。生体中で銅は様々なタンパク質と結合することにより、その機能を発現または抑制している。また、銅の同位体比(65Cu/63Cu)は化学種形態ごとに異なることが報告されている。このことを利用して、我々は特定の化学種形態への銅の要求量が変化する状態において、銅同位体比を指標とした、銅の代謝評価法を開発することを目指している。
多重検出器型ICP質量分析計は多くの元素を高効率でイオン化し、複数の同位体を同時に検出することができる、強力な高精度同位体比測定装置である。しかし、生体中で生じる1 ‰程度の銅同位体比の違いを区別するためには、生体試料中に多量に含まれるNa等に起因する非スペクトル干渉を避ける必要がある。本発表では、イオン交換分離による模擬血清中からの銅の回収結果と、今後の方針について議論する。

講演者2:山下修司(Shuji Yamashita)
タイトル:多原子イオンを用いたナノ粒子の粒径計測ダイナミックレンジの拡大
Title: Extension of Nanoparticle Size Upper Dynamic Range using Polyatomic Ions
要旨:ナノ粒子の利用拡大に伴い,ナノ粒子の粒径・元素組成等の特性評価の重要性が増している.近年ではナノ粒子の分析法として,イオン源に大気圧プラズマを用いたICP質量分析計(ICP-MS)が注目されている.ICP-MSによるナノ粒子分析法はシングルパーティクルICP-MS(spICP-MS)と呼ばれ,粒子ごとの粒径・元素組成情報の入手が可能である.spICP-MSは優れた感度と元素特異性を示すため,環境試料測定の課題を克服する可能性を秘めたナノ粒子特性評価の先進技術である.
 spICP-MSによる粒径分析は20〜80 nmの粒子に焦点を当てた報告が多く,この粒径範囲を超える粒子に対するspICP-MSの分析性能の報告は少ない.講演者の研究室では,高感度磁場型ICP-MSに脱溶媒試料導入法を組み合わせることで分析感度の改善を行い,6 nm程度の金ナノ粒子の粒径計測に成功している.一方で60 nmを超えるナノ粒子では,信号の計測率が107 cpsを超えるため,数え落としによる系統誤差が顕著となる.この問題に対し,白金製グリッドによるイオン計数率を1/100程度に低減(アッテネーション)する手法を応用することで,108 cps以上の強い信号からも正確な計数率測定が可能となった(Sakata et al., 2014).こうした技術を組み合わせることで6〜100 nmまでの粒径計測ダイナミックレンジの拡大に成功したが,より広い粒径範囲の分析を求める要請も根強い.さらに学術観点からは,大きな粒子を計測することで,ICP内での分析元素が完全にイオン化されるエアロゾルサイズの上限(臨界サイズ:1.5 µm と言われている(Halicz et al., 1993))を正確に評価できる.そこで本研究では,発生率の低い多原子イオンを用いることで擬似的にナノ粒子の粒径計測ダイナミックレンジの拡大を図る.
 試料はSigma-Aldric社(St. Louis, USA)から市販されている粒径既知の10〜300 nmの金ナノ粒子(Au NP)を用いた.一般的にナノ粒子とは1~100 nmの大きさの粒子を指すが,本研究では検討した全ての粒子をナノ粒子と呼ぶことにする.Au NPを個数濃度が約50,000個/mLとなるよう超純水中に分散させ,試料溶液をGlass Expansion社製のネブライザー(吸い上げ速度0.2 mL/min)で噴霧し,脱溶媒装置を経由した後にICPに導入した.本研究では脱溶媒装置(Teledyne Cetac社製AridusⅡ)を用いることで,アルゴン化物の生成量の増加を図った.計測には磁場型ICP-MS(Nu Instruments社製AttoM)を用いdwell timeは30 µsとした.解析には独自に開発した処理ソフト(NanoQuant)を用いた.
 イオン源であるICPは大気圧下に存在することから,ICPに巻き込まれた空気成分由来の多原子イオンが生成すると推測される.そこで本研究では 197Au1H+,197Au12C+,197Au14N+,197Au16O+,197Au40Ar+に着目した.これらの多原子イオンのうち,質量電荷比が198である197Au1H+は198Hgとスペクトル干渉を起こすため分析対象から除外した.粒径100 nm の金ナノ粒子を導入した際に得られる197Au12C+,197Au14N+,197Au16O+,197Au40Ar+のそれぞれのイベント数を調べたところ,ブランク測定時のイベント数に対して,197Au40Ar+のみが優位なイベント数の増加を示した.本発表では分析法や分析条件の検討と結果について言及する.