2026年4月17日

Date: 16:00-18:00, Friday, April 17, 2026

講演者:大野 晴都

Title: Synthesis and Analysis of Novel Molecular Conductors

要旨:分子性伝導体は、部分酸化状態や電荷移動現象により高伝導性を示す。また、組み合わせる分子次第で多様な物性を示す。このような特性を持つ分子として、1,3-dithiole-2-thione-4,5-dithiolato (dmit) 配位子と2価のNi 陽イオンから成るアクセプター性アニオン分子 [Ni(dmit)2] がある。これは平面形で、カルコゲン原子の3p 軌道に由来するπ電子系の積層に伴い、多様な伝導経路を持つ部分酸化状態の積層構造として、分子性伝導体を形成することができる。この分子を用いた、分極性カチオンを積層構造に挿入した伝導性と誘電性が切り替わる分子伝導体が報告されている。他の分子でも、例えば1,4-diazabicyclo[2.2.2]octane (HDABCO+) と7,7,8,8-tetracyano-p-quinodimethane (TCNQ) を用いた (HDABCO+)2(TCNQ)3 が、高温域において TCNQ 由来の伝導性と HDABCO+ 由来のプロトン分極による誘電性を併せ持つことが報告されている。

 先行研究では、[Ni(dmit)2] を用い、カルボキシアルキル基を持つホスホニウムが挿入された積層構造の合成が行われた。カルボキシアルキル基のプロトン分極による誘電性と [Ni(dmit)2] に由来する伝導性を併せ持つ単結晶が析出すると想定されたが、実際にはホスホニウムを含まない電気的に中性の純粋なNi(dmit)2単結晶が析出した。先行研究でのカチオンが挿入されないという課題を解決するため、本研究では、カルボキシアルキル基を持つホスホニウムのプロトン性分極の代わりにエーテル基を持つアンモニウムの非プロトン性分極を利用した。(Et3NCH2OCH3)[Ni(dmit)2] を原料とする部分酸化塩の合成に挑戦した。

 原料のEt3N(CH2OCH3)Clとdmit(COPh)2を文献に基づき合成した。文献を参考に新規錯体 (Et3NCH2OCH3)2[Ni(dmit)2]を合成し、暗緑色の粉末状化合物を得た。またヨウ素酸化により(Et3NCH2OCH3)[Ni(dmit)2]を合成し、若草色の粉末状化合物を得た。この塩のアセトニトリル溶液をH型セルの陽極側に、電荷担体としてn-Bu4NBrを陰極側に入れ、定電流電解を行った。25 ℃、電流値1.5 µAかつ塩と電荷担体の物質量比が1:20のとき、陽極の電極表面に黒色結晶の生成を確認した。

 拡散反射スペクトルから、暗緑色の粉末と若草色の粉末とが異なる物質であることを確認できた。電解時の溶媒としてアセトニトリルを用いた場合は結晶が析出し、アセトンの場合は結晶が析出しなかったことから、電解時の溶媒としてはアセトニトリル以上の極性が有利であると考えられた。FE-SEM/EDSの結果、析出した黒色結晶が目的物である可能性が示された。単結晶構造解析の結果、析出した黒色結晶は単結晶ではないと考えられた。

 本研究はカチオンが挿入されないという先行研究の課題を解決した。将来の課題として、単結晶の合成法確立および構造解析、また物性評価が挙げられる。

講演者:三津川 到

タイトル:上部マントルにおける非生物的な有機物合成:マントル捕獲岩中の包有物からの証拠
Title: Abiotic Organic Matter Formation in the Earth’s Upper Mantle: Evidence from Inclusions in Mantle Xenoliths

要旨:地球のマントル内部において生物が関与することなく有機物が合成されている可能性が19世紀後半から議論されてきた。マントル内部での非生物的有機合成の最も直接的な証拠となるのは、マントル物質中の流体・メルト包有物内に保存された有機物である。しかし、包有物中の有機物のその場での検出は、これまでキンバライトや超高圧かんらん岩において報告されているものの、限られた地域からの報告にとどまっている。したがって、マントル内部での非生物的な有機物合成が一般的な現象なのか、また、どのような有機物が実際に合成されているのかといった点については依然として不明な点が多い。

博士課程の研究では、マントル捕獲岩中から有機物包有物を特定し、その分子特性と共存鉱物、共存流体を明らかにすることを目的とした。放射光X線CTや顕微ラマン分光分析などの手法を用いて、マントル捕獲岩中の包有物に対する分析を実施した結果、以下に示す3タイプの有機包有物を発見した。

(1) Type A:二酸化炭素と共存する芳香族を主体とする有機物(Tahiti)

(2) Type B:含水鉱物や炭酸塩鉱物と共存する脂肪族・芳香族を主体とする有機物(Tahiti)

(3) Type C:脂肪族を主体とする有機物(Samoa)

本研究において、有機物のシグナルはすべて包有物内からのみ検出されており、それらが地表付近での汚染に由来する可能性は極めて低いと考えられる。共存流体や共存鉱物、および検出された有機物の特徴と過去の高温高圧実験における生成物の特徴の比較に基づき、Type AおよびType Cの包有物については、マントル内部で非生物的に合成されたものであると結論づけた。一方、Type Bについては、捕獲岩の地表への上昇に伴う包有物内での流体-鉱物反応により生じた局所的な還元環境で形成されたと解釈した。本研究成果は、マントルの広い領域で多様な有機物が生成されている可能性を示唆する。