Date: 16:00-18:00, Friday, June 5, 2026
講演者:川道 豪秀
Speaker: Takahide Kawamichi
タイトル:凍結濃縮と圧力誘起エステル化反応:氷衛星における化学反応への示唆
Title: Freeze-concentration and pressure-induced esterification
reaction: implication for chemical reaction on icy moons.
要旨:木星衛星ガニメデを覆う氷層の最深部は温度300 K、圧力1.6 GPaに達すると想定され(Journaux et al.,2020)、深部に存在しうる有機分子の反応性が常圧と大きく異なる可能性がある。Takahashi et al.(2016)は、高圧下で氷が存在するとき、凍結濃縮作用によって有機分子の濃度が局所的に高まることで化学反応が加速される可能性を示した。さらに高橋ら(2017, 修士論文)は、酢酸-メタノール-水を混合した溶液に室温で圧力をかけ、水が氷として析出して液体水が実質的に反応系から排除されると平衡が生成物側へシフトし得ることを指摘した。そこで本研究では、カルボン酸-メタノール-水からなる3成分混合試料を室温で加圧し、氷相形成と有機化合物間の化学反応について検討した。
出発試料はカルボン酸:メタノール:水=1:3:110(モル比)とし、カルボン酸として酢酸(CH3COOH)、プロピオン酸(C2H5COOH)、酪酸(C3H7COOH)を用いた。試料をダイヤモンドアンビルセルに導入し、室温条件で4.0
GPaまで加圧する過程で、X線回折測定、顕微ラマン分光測定および光学顕微鏡観察を行った。圧力はルビー蛍光法と金の状態方程式から求めた。
X線回折パターンから、酢酸-メタノール-水混合試料において、1.4 GPaでice Ⅵ、2.0 GPaでice
Ⅶの析出が確認された。一方、酢酸やメタノールといった有機物に由来するブラッグ反射は観察されなかった。このことから、溶媒である液体水は高圧下で結晶化し氷となるが、溶質である有機物は液体もしくはアモルファスとして存在したと考えられた。
また、ラマンスペクトルから、ice Ⅵの粒成長に伴って有機物が局在化する凍結濃縮の様子が観察された。さらに、有機物が濃縮している場所でエステル化反応の進行が確認されたが、カルボン酸の種類によって収率に大きな差がみられた。特にカルボン酸として酢酸を用いた試料では平衡はほぼ完全に生成物側へシフトしたが、酪酸を用いた場合には生成物は確認されなかった。
以上の結果から、氷の析出による凍結濃縮作用により有機物は局在化するが、反応性は有機分子の種類により異なる可能性が示唆された。
講演者:米田 羅生
タイトル:火山ガスのサンプリング手法間におけるヘリウム同位体比の系統的変動とその統計解析
要旨:ヘリウムは地球のリザーバーごとに異なる同位体比(3He/4He)を持つことから、物質の地球化学的起源を推定する有用なトレーサーとして用いられる。大気の3He/4He(=1.4×10^-6)を1Raと定義すると、マントルでは8(±1)Ra程度、地殻では0.02Ra未満の値を示す。日本のような沈み込み帯の島弧火山に由来する物質では両者の中間的な値を示し、これはマントル物質と地殻物質の混合に由来する。この混合比が変わることで3He/4Heが変化することから、火山ガスの3He/4Heの変化をモニタリングすることで火山活動を評価する取り組みがなされている(e.g. Padrón et al., 2013; Sano et al., 2014)。
同位体比によって火山活動評価を行うためには、質量分別を可能な限り排除した確度の高いデータが求められる。一方、所属研究室が保有する過去10年程度のデータからは、サンプリング手法によって同位体比に系統的な差がある可能性が示唆されている。本研究では、統計手法を用いて以下に示す2つのサンプリング手法間にバイアスが存在するか検証を行う。一方の手法は火山ガスを一度冷却管に導入して水蒸気を除いたのち、そのガスを二口のガラス製ボトルに流しながら採取するドライガスフロー法、もう一方はアルカリ溶液を封入して真空にしたガラス製ボトル(Giggenbachボトル)に火山ガスを直接導入するGボトル法である。
4He/20Ne比を用いて混入した空気の寄与を補正した3He/4Heの最良推定値がドライガスフロー法よりもGボトル法で低い値を示す傾向にある一方、不確かさの範囲内では一致している場合が多く、単純な統計的検定では有意差を検出できないため、医療や社会科学分野で用いられる「メタアナリシス」と呼ばれる手法を応用してサンプリングバイアスの検出を試みた。この手法は2つの治療法等の比較が複数の研究で報告されている場合に各研究の結果を統合して有意差の有無を検証する手法である。これは、「2つのサンプリング手法の比較が複数の地点で行われている場合に各地点の結果を統合して有意差の有無を検証する」ことと構造的に一致する。
統計手法はDeeks et al.,2024に従った。各地点のGボトル法とドライガスフロー法の3He/4Heの差を不確かさ付きで算出し、それらの逆分散法による加重平均と不確かさを計算した。各地点間に統計的な異質性があるかχ^2統計を応用したI^2統計量を算出し、異質性が認められる場合にはDerSimonian-Laird法(DerSimonian & Laird, 1986)によって異質性パラメータを算出して再計算を行った。一連の解析の結果、有意水準0.05でGボトル法がドライガス法よりも有意に低い3He/4Heを示すという結論を得た。
同位体比に差をもたらした原因の特定のためにさらに実験を行った。分析したサンプルは全て大気より高い同位体比を持つサンプルであったことから、大気ヘリウムの混入によりGボトル法の3He/4Heの低下をもたらしたと考えられる。この原因はいくつか考えられるが、今回はボトル内の拡散の寄与を調べた。群馬県万座温泉付近の火山ガスをドライガスフロー法、Gボトル法の両手法でサンプリングし、2ヶ月間わたって空気中に放置しながら定期的に計8回ずつ分析を行った。拡散の寄与があれば、時間経過に従って大気とボトル内のガスサンプルの間でヘリウムの交換が起こり、同位体比が低下すると考えられる。過去データの統計解析の結果と同様に今回もGボトル法で有意に同位体比が低下することが検証された一方、両手法とも拡散に伴う同位体比の低下は検出されず、少なくとも2ヶ月程度では拡散の寄与は無視できることがわかった。これは、サンプリング時点で既にGボトル法におけるヘリウム同位体比の低下が発生していたことを示唆する。