2026年6月26日

Data: Date: 16:00-18:00, Friday, June 26, 2026

講演者:澁谷心
タイトル:ATR-FTIR を用いた非晶質炭酸カルシウム(ACC)中の水分量定量法の開発

炭酸カルシウム(CaCO₃)には、calcite、aragonite、vaterite
という三種類の無水結晶多形が存在するが、これらの結晶化の前駆体として、構造内に水を含む非晶質炭酸カルシウム(ACC: Amorphous Calcium Carbonate)の存在が知られている。化学式CaCO₃・nH₂O(n ≲ 1.5)で表されるACCは、生体鉱物化の過程においてウニの棘 (Marie et al., 2018) やザリガニの胃石から見つかっている
(Sato et al., 2011)。ACCの水については、構造内の水がイオン拡散や相転移を制御する決定的な因子であると考えられているという報告(Konrad et al., 2016) や、水分の存在は結晶化を促進し(Yoshino et al., 2012)、脱水された ACCは高圧下でも結晶化が抑制されるという報告 (Morita, 2025)がある。このように、ACCの結晶化において水分は極めて重要な役割を担っており、その物性を定量的に議論するためには、含有水分量を正確かつ簡便に把握する手法の確立が必要である。従来、ACC の水分量測定には熱重量分析(TG-DTA)が一般的に用いられてきた。しかし、TG測定は1回あたり7〜10 mgの試料を必要とする破壊検査であり、さらに測定に約1時間を要することから、試料量および時間的な面で大きな制約があった。そこで本研究では、1mg 以下の微量試料かつ非破壊で迅速に測定可能な減衰全反射赤外分光法(ATR-FTIR)に着目し、スペクトル情報から水分量を算出する検量線の構築を目的とした。

実験では、0.1 M の Na₂CO₃ および CaCl₂ 水溶液を氷冷下で混合し、迅速なろ過およびアセトン洗浄を経て、真空デシケーター内で24 時間乾燥させることで ACC 試料を合成した。得られた試料について、TG-DTAによる脱水に伴う重量減少から参照となる水分量(n)を算出し、同時にMCT 検出器を用いた ATR-FTIR測定を実施した。スペクトル解析においては、炭酸基の ν₃ 振動(1400〜1500 cm⁻¹)のピークに対する、水の変角振動(ν₂:〜1640 cm⁻¹)の強度比及び面積比を算出し、TG測定値との相関を評価した。その結果、ATR スペクトルにおける強度比及び面積比は、TGで得られた水分量と良好な相関を示し、迅速な定量手法としての妥当性が確認された。一方で、水分量と結晶化温度の関係を調査したところ、本研究の範囲内では明確な依存性は観察されなかった。
今後は、KBr錠剤法への応用に向けた補正により検量線の精度を向上させるとともに、本定量法を活用することで、多様な水分量条件下における結晶化圧力等の物性を定量的に評価する予定である。

講演者:角野浩史

タイトル:可搬型質量分析計を用いた草津白根火山における火山ガス中の3He/4He比のオンサイト分析
Title: On-site Analysis of Volcanic Gas 3He/4He at Kusatsu-Shirane
Volcano Using a Portable Mass Spectrometer

要旨
火山ガスや温泉・冷泉ガスに含まれるヘリウムの同位体比(3He/4He比)は、火山の活動度をモニタリングする上で有用な指標である。火山活動が活発化すると、マントル起源成分が占める割合が増加し、火山ガスや温泉・冷泉ガスの3He/4He比が上昇することが知られている。一方で従来の3He/4He比モニタリングは、現場での繰り返しサンプリングと、実験室における大型の磁場型質量分析計を用いた分析を要するため、データ取得の頻度に制限が生じている。この問題を克服するため、我々は現場での測定が可能な3He/4He比分析装置を開発している。
3He/4He比の分析で最も障害となるのは、質量分析計内に普遍的に存在するHD+あるいはH3+である。3He+とHD+あるいはH3+を区別するには、質量分解能(M/ΔM)が約510必要である。従来の飛行時間型質量分析計(TOF-MS)および四重極型質量分析計では、十分な質量分解能とコンパクトさを同時に実現することはできない。そこで我々は、マルチターンTOF-MS「MULTUM-SII」をベースにした可搬型質量分析計「infiTOF」(KANOMAX JAPAN INC.)を用いている。この装置はサイズと重量が小さく、3He+およびHD+、H3+を分離するのに十分な高い質量分解能を兼ね備えている[1,2]。希ガス分析では通常、活性ガスを除去し、希ガスを元素ごとに分離するために超高真空の前処理ラインが必要となる。我々は、加熱された石英管を用いて試料ガスからヘリウムを選択的に抽出することで、システム全体のサイズと重量の削減を目指している[3]。
これまでに開発した分析システムを用いて、草津白根火山付近の噴気地帯[4]で現地テストを行った。そこで明らかになった主な課題は、(1)日本を含むほとんどの沈み込み帯において、噴気ガスの95%以上を占める水蒸気の除去と、(2)大気混入を防ぎつつ、微弱な噴気を連続的にポンプで吸い込み、噴気から数10m先にある石英管まで供給することであった。現時点ではこれらの問題に対して完全な解決策は得られていないが、少なくとも採取した噴気を現場で分析し、3He/4He比を得ることが可能なことは実証できた。
引用文献: [1] Toyoda M. et al. (2003) J. Mass Spectrom. 38, 1125-1142. [2]Shimma S. et al. (2010) Anal. Chem. 82, 8456?8463. [3] Bajo K. et al.(2012) Mass Spectrom. 1, A0009. [4] Obase T. et al. (2022) Sci. Rep.
12, 17967.