Date: 16:00-18:00, Friday, July 24, 2026
講演者:平田 和
題目:高温領域(≦700K)における氷のplastic相の探索
要旨:Plastic Ice VIIは、水分子の酸素格子を維持したまま、水分子が高速に回転運動を示す高圧氷相として、これまで理論計算や分子動力学シミュレーションを中心にその存在が提案されてきた。また、一部の実験研究においてもその可能性が議論されているものの、その存在を直接支持する実験的証拠は依然として限られている。
本研究では、先行研究(Maria et al., 2025)で報告されたPlastic Ice VIIの観察条件を基盤とし、さらに温度・圧力領域を拡張したX線回折(XRD)測定を行うことで、Plastic Ice VIIの実験的検証を目的としている。本発表では、これまでに取得したXRDデータをもとに解析結果を報告するとともに、その解釈や今後の実験方針について議論し、ご指導・ご助言をいただきたいと考えている。
また、本研究では高温高圧実験用セル(Helios DAC)を用いて測定を行っているが、これまで試料部とダイヤモンド近傍との間に生じる温度差が実験およびデータ解析上の課題となっていた。現在は、その温度分布や試料温度の評価方法について検討を進めている段階である。本発表では、高温領域における温度評価の考え方や取り扱いについても現状を報告し、より適切な評価手法について議論させていただきたい。
講演者:高野 将大
Title: First-principles calculations on Fe-X-H ternary systems (X = Si, Ni): Changes in the hydrogen-induced volume expansion coefficient in iron alloys and their origins
要旨:地球核の主成分はFe-Ni合金であるが、実際の地球核の密度は同じ温度圧力条件のFe-Ni合金と比較して有意に小さいため、H, C, O, Si, Sなどの原子番号の小さい元素(軽元素)が地球核中に固溶し、密度を低下させていると考えられる(e.g., Birch, 1952; Birch, 1964; Hirose et al., 2021)。地球核の組成は、地球全体の組成や分化過程を知る上で非常に重要な情報だが、地球核由来の試料が入手不可能なことや各元素間の相互作用が複雑なため、未だ十分に制約されていない。水素(H)は、高温高圧条件下で鉄と反応して鉄水素化物FeHxを形成し(Fukai and Akimoto 1983)、密度を大きく低下させるため、地球核の主要な軽元素候補として注目されている。水素の密度低下効果を定量するため、高温高圧その場観察実験や第一原理計算により、水素原子1個あたりの体積膨張効果(水素誘起体積膨張係数、vH)が決定され、地球核の水素量推定に用いられてきた。
実際の地球核はFe-Ni-軽元素の多元系であるため、Fe以外の共存する元素(Ni, Si, C, O, S)により、水素の存在様式や、体積膨張効果がどのように変化するか調べなくてはならない。実際、Fe0.95Si0.05合金及びFe0.9Ni0.1合金では、鉄同様に水素化物を形成し、水素による体積膨張効果が増大することが実験的に報告されている(Mori et al., 2021, 2024; Shito et al., 2023)。これらの実験結果は、鉄が第三元素と合金を形成することで、水素による体積膨張効果が大きく変化することを示唆しており、鉄-水素二元系に第三元素を加えた三元系における水素の効果を調べる必要性を示している。
本研究では、hcp Fe-Ni合金および hcp Fe-Si合金を対象に、第三元素の固溶により水素誘起体積膨張係数vHが変化する機構を第一原理計算により調べた。第一原理計算にはQuantum ESPRESSOを用い、交換相関汎関数にはPBE型GGA、擬ポテンシャルにはウルトラソフト擬ポテンシャルを用いた。hcp Feの単位胞を2×2×2倍に拡張したFe16、Fe15Si1、Fe15Ni1と、それぞれにHを1原子導入した系について、0–350 GPaで構造最適化を行った。Fe15Si1H1およびFe15Ni1H1では、16個の八面体サイトをSiまたはNiとHの距離に基づいて4種類に分類し、各配置で個別に構造緩和した。得られた体積からvHを算出し、同じ圧力におけるFe16H1と比較した。また、同一圧力における相対エンタルピーを比較し、H占有サイトのエネルギー利得を評価した。電子状態密度解析は、各水素配置間の体積膨張効果の差が最も大きい0 GPaの構造を用いて行った。なお、全ての構造緩和計算は高圧下で安定化する非磁性状態の条件下で実施した。
計算の結果、Fe15Si1H1ではSi最近接サイト配置におけるvHがFe16H1のvHと比較して10%増加した。一方、Siから離れたサイトではFe16H1とのvHの差は小さくなった。これは、Si添加によるvHの増大がHの局所配置に強く依存することを示す。一方、Fe15Ni1H1では、Ni最近接サイトだけでなく、Niから離れたサイトでもvHがFe16H1よりわずかに大きくなった。この結果は、NiによるvHの増大が単純な最近接Ni–H相互作用だけではなく、Fe–Ni合金化によるホスト側金属の価電子状態の変化に起因する可能性を示唆する。さらに、圧力上昇に伴ってFe15Si1H1およびFe15Ni1H1とFe16H1のvHの差は小さくなり、地球内核圧力では第三元素によるvHの差はほぼ消失した。以上から、内核圧力でのH量推定では、第三元素によるvHの差は小さいと考えられる。