Date:16:00-1800, Friday, July 31st, 2026
講演者:泉 那由多
タイトル:有珠山山頂地域における火山性流体放出プロセスの理解に向けた土壌拡散CO2フラックス観測および炭素同位体比分析
要旨:火山地域では,噴気に加えて土壌表面からの放散である土壌拡散によっても火山ガスが放出される.中でもCO2は広い温度範囲で普遍的に検出される主要成分であり,単位面積・単位時間あたりの放出量であるフラックスの空間分布を把握することで,火山ガスの流動経路や浅部構造について情報が得られる.土壌ガスには火山起源と生物活動起源のCO2が混在するため,CO2の起源により異なる値を示す炭素安定同位体比(δ13C)の分析を行い,CO2濃度と比較することで,土壌ガス起源を推定することができる.
本研究の対象地域である有珠山では,2000年噴火の前後にCO2フラックス観測が行われており,噴火の約6ヶ月前に山頂地域においてCO2フラックス値が大きく増加し,噴火後に急速な減少が確認された.そのため,CO2フラックスの繰り返し観測によって,将来の有珠山噴火の前駆過程を捉えられる可能性が指摘されている.本研究は,2025年9月までに行われたCO2フラックスの繰り返し観測の結果を用いて,空間内挿による空間分布推定から土壌拡散CO2放出量を求め,過去のデータと比較することで,有珠山山頂地域におけるCO2フラックスの空間分布および時間変化に関する理解を深めることを目的とする.加えて,土壌ガスの炭素同位体比分析を組み合わせることで,土壌拡散ガスに含まれるCO2起源を推定し,土壌拡散ガス放出プロセスの理解を目指す.
チャンバー法により測定したCO2フラックス値から,クリギング手法のひとつである逐次ガウスシミュレーションを用いて測定点間のデータを補間することで,CO2フラックスの空間分布と時間変化を評価した.また,土壌ガスサンプル分析からCO2濃度とδ13C値を求め,キーリングプロットを行うことで起源ガスのδ13C値を求めた.解析の結果,多くの測定点でCO2フラックスは低い値を示したが,銀沼火口,I火口,北屏風山の一部で高い値が確認された.特に,北屏風山では2000年噴火時に形成された断層と一致する高フラックス域が確認され,断層を通じたガス上昇が現在も継続している可能性が示唆される.2020年以降の単位面積あたりの土壌拡散CO2放出量は6.6–33.3 t/km2/dayで推移し,2000年噴火前(128 t/km2/day)と比較して有意に低かった.2024年10月の測定では一時的な増加が見られたが,その後減少が確認された.この増加は火山活動の活発化を示唆しないと考えられるが,2020年以降では最も高い値であり,継続的な観測が必要である.δ13C分析の結果,北屏風山および銀沼火口では火山起源CO2の寄与が示されるが,起源ガスのδ13C値はサンプリング地点によって異なり,山頂地域内で複数のガス上昇プロセスが存在する可能性が示唆された.
発表者:岩野英樹
Speaker: Hideki Iwano
タイトル:ジルコンハイブリッド年代測定の考古学研究への応用
Title: Application of zircon hybrid-geochronology in archaeological research
要旨:約30万年前にアフリカでホモ・サピエンスが出現した後、我々の種はユーラシア大陸および東アジアへと移住し、少なくとも4万年前には日本列島に到達した。この拡散の記録は、骨格遺骸の保存状態が悪いために不明瞭な場合が多く、こうした移住に関する我々の理解は、石器遺物の記録に大きく依存している。石器製作に重宝される火山ガラスである黒曜石は、その並外れた耐久性と地球化学的な追跡可能性から、極めて重要な代替指標として機能する。これまでに日本の地層から出土した数多くの黒曜石遺物は、資源の調達や地域間の交流を含む、初期人類活動の時空間的動態について重要な知見を提供している。本研究は、黒曜石の高解像度な地球化学的および考古学的分析を通じて、初期人類の拡散パターンを解明することを目的としている。
黒曜石の形成年代を特定することで、その火山源の噴火時期を推定し、人間がその特定の石を道具として利用した時期の上限を定めることができる。本研究における重要な黒曜石遺物は10万年前より新しいものであり、これらは日本における人類の移動に関する年代的制約を提供することができる。既存の方法では黒曜石(ガラス)を対象にしたフィッショントラック(FT)法やカリウム・アルゴン(K-Ar)法を用いられていた。本研究では、複数の年代値を相互参照できる、高精度かつ高正確なハイブリッド年代測定法として、ジルコンのU-Th法とFT法のダブル年代測定法を採用した。これにより、ガラス特有の課題である1)脆さ、2)放射性同位体の低濃度という問題を克服することが可能となった。
九州の姫島にある城山火山は、黒曜石の産地としてよく知られている。1970年代の城山火山に関する年代測定報告(およそ30万年前)は、最近約7万年前(70ka)というK-Ar年代に刷新された(Miyazaki et al., 2026)。この黒曜石に、ウラン濃度1000 ppmを超える自形ジルコンが十分に含まれていることを確認し、LA-ICP-MSを用いたジルコンのU-ThおよびFTハイブリッド年代測定を行った結果、約70 kaという年代値(噴出年代)を得た。本研究ではさらに、石器遺物として認められた姫島の稲積火山(流紋岩)についても年代測定を行い、現生人類の日本到達時期解明に関わる取り組みを紹介する。