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さらに高温アルゴンプラズマの特長はイオン源が大気圧であるため、様々な試料導入法が適用可能である。様々な試料導入法のなかで、レーザーアブレーション試料導入法は、固体試料を直接化学分析できるため、地球化学試料の分析には広く用いられてきた。私たちの研究グループでは、地質試料・固体鉱物試料中の微量元素分析を目的に、これまでレーザーアブレーション試料導入法の開発を続け、2007年にフェムト秒レーザーを応用した次世代レーザーアブレーション法の実用化に成功し、これまで分析が困難であった試料から正確な地球化学データを引き出すことが可能となった。

Facility

レーザー分光装置(LIBS, LAMIS)

レーザー照射した際に発生する光(原子発光)を使って、固体の試料がどんな化学組成をもっているかを調べる装置です。高分解能分光器と高感度検出器を組み込みましたので、分子分光にも応用できます。この分析法とICP質量分析計を連結することで、軽元素から重元素まで、ほぼ全ての元素分析が可能となります。現在、分子分光を利用することで、分析元素の化学形態情報(酸化物か塩化物か、あるいは二価か三価なのか等)を取得する試みを続けています。これにより、固体試料から初めて元素存在形態と濃度情報を同時に取得できる可能性が出てきました。

キーワード:原子発光、分子分光、軽元素同位体分析、化学形態分析

磁場型ICP質量分析計(高速質量走査タイプ) Nu Instruments AttoM HR-ICPMS

プラズマ質量分析法(ICP-mass spectrometry, ICP-MS)の進歩は元素分析の高感度化、分析空間分解能の向上、分析の迅速化の全てに多大な貢献を果たした。質量分析計では分析元素あるいは分子をイオン化し、電場あるいは磁場を用いて分析対象とするイオンまたは分子を重さごとに分離する。分析元素イオンを”数える”ことができるため、他の分析法に比べ非常に高い検出感度が得られる。さらにプラズマイオン源では周期律表の殆どの元素に対して90%以上の高いイオン化効率が得られるため高感度・多元素同時分析法が実現できる。

高感度なICP質量分析計で高速走査により多元素同時分析が可能です。検出器にアッテネーターとよばれる感度調整機能があり、これまでにない広いダイナミックレンジでの元素・同位体分析が可能です。我々の研究室では、この質量分析計の特徴を活かしてナノ粒子の高速分析に応用しています。5nmから100nmまでのナノ粒子を高速で分析することが可能となりました。現在、ナノ粒子の分布分析(イメージング分析)に応用しています。iQuantNanoを組み合わせることで、位置、ナノ粒子のサイズ、溶存成分の有無などを一度に検査できます。

キーワード:高感度多元素同時分析、広ダイナミックレンジ分析、ナノ粒子高速分析

磁場型ICP質量分析計(多重検出法式) Nu Instruments Nu Plasma 2 MC-ICPMS

21個のイオン検出器を用いて、複数のイオンを同時に検出することができる質量分析計です。イオン検出器のうち6個は高感度イオン検出器であり、イオン1個から検出することができます。昨年、世界で初めてデイリーイオン検出器を用いた多重検出方式を実用化し、同位体分析の精度と安定性を飛躍的に向上しました(Obayashi eat al., JAAS, 2017; Hattori et al., 2017)。現在、炭酸塩岩やリン酸塩岩の年代測定の実用化を進めています。これにより、日本の年代学を基盤から支える分析体制が構築できます。

キーワード:高精度同位体分析、安定同位体分析、高精度年代学

フェムト秒レーザーアブレーション装置(ガルバノ光学系タイプ) CyberProbe UV Plus

短パルスレーザーを用いたレーザーアブレーション装置です。日本で最初にフェムト秒レーザーを応用するとともに(Hirata and Kon, 2009)、世界で初めて高速多点アブレーションを実現しました(Yokoyama eat al., 2011)。高速多点アブレーションとは、複数の個体試料をほぼ同時にアブレーションすることで、個体試料の混合や、分析元素の添加、さらには内標準元素の添加などが可能となり、定量分析や同位体分析への適用展開が大幅に進みました。微量元素分析やイメージング分析で注目されており、近い将来、世界の標準仕様になると期待されています。

キーワード:高感度・高定量性、ガルバノ光学系、高速多点分析、イメージング、ソフトアブレーション

デイリーイオン検出器・ハイゲインイオン検出器(MC-ICPMS装着)

高い信号出力直線性と長時間ゲイン安定性が得られます。最先端計測研究室では、3基のデイリーイオン検出器を用いた精密同位体分析を続けています。また、本年4月には、デイリーイオン検出器3基とフルサイズマルチプライアー1基の合計4基の高感度イオン検出器の読み出し周波数を100倍以上高めることで、ナノ粒子の化学組成・同位体分析に応用します。このイオン検出方式は世界ではじめてのものであり、コアシェル型のナノ粒子の分析が初めて可能となります。1秒間に100MB以上のデータ容量となりますので、現在、高速処理ソフトの開発も進めています。

キーワード:高安定性・高精度、ナノ粒子同時検出、コアシェルナノ粒子化学分析

四重極型ICP質量分析計(Thermo Fisher Scientific iCAPQc)

高速質量走査が可能なICP質量分析計です。90度折り曲げ構造を持っており、高マトリックス試料の分析でも安定した性能を保持できます。私たちの研究室では、この特徴を活かして生体試料のイメージング分析に活用しています。現在、サーモ社と共同で、リアルタイム・イメージングシステムの開発を進めています。これまでの複雑な操作を省きながら高速で元素・同位体イメージングが可能となります。

キーワード:高安定性、高マトリックス対応、イメージング分析

真空紫外線レーザーアブレーション装置(Teledyne Cetac Analyte Excite)

独自開発ソフトウエア

ArFエキシマレーザーを用いたレーザーアブレーション装置です。初めて500 Hzでの高繰り返し発振が可能となりました。クレーター底が平坦(フラットボトム)であるため、深さ方向の元素分析に威力を発揮します。また、安定した信号が得られ、また元素分別も低減できることから、私たちの研究室では年代測定に活用しています。また、アブレーション時におけるナノ粒子の破砕を最小限に低減できるため、AttoM、iQuantNanoを組み合わせることで、ナノ粒子の分布分析に応用できます。

キーワード:フラットクレーター、自動分析、低分別効果、高安定性、年代測定

研究室では様々なソフトウエアの開発を進めています。


iQuant2は時系列データを可視化するソフトウエアです。LA-ICPMSを用いたイメージング分析に広く活用されています(無料配布しています)。詳細は質量分析学会誌に出版されています(Suzuki et al., 2018)。元素分布の鳥瞰図や半定量分析に対応したiQuant2+や、ナノ粒子の分布分析にも対応したiQuantNanoのリリースも計画しています。


NanoQuantはナノ粒子の検出およびサイズ分析を行うためのソフトです。ナノ粒子の計測では、信号積分時間を短く設定するため、短時間の分析でも膨大な信号情報が取り出されてきます。膨大な時系列信号情報からナノ粒子の検出とサイズ分析、さらにはナノ粒子信号の重複の確認までを一括して行うソフトウエアです。希望の方には無償で配布しています。