鍵研究室とは

実験室

地球化学とは、20世紀初頭に欧米の偉人たちによって確立された学問です。
地球に存在する元素、化学種、同位体の分布と移動を時間空間的に扱い、分布や移動の基礎原理を明らかにすることから出発した地球化学という学問は、地球の中長期的な環境変動を物質科学的な側面から解析・予測するなど、現代科学の非常に重要な学問分野として発展してきています。
2010年4月に発足した鍵裕之教授率いる地球化学研究室では、東京大学大学院理学系研究科化学専攻に所属する「地の利」を活かして、より基礎的な見地に立った地球化学、特に地球・惑星の内部物質の構造や物性、そしてバイオミネラリゼーションを含めた地球表層物質の生成過程などに力を入れて研究を進めています。

おもな研究テーマ

実験室

私たちの研究グループでは、地球を構成する物質とその変化の過程を化学の目で理解することを目指した研究を行っています。
マントルに由来する岩石や天然ダイヤモンドに含まれる包有物の残留圧力を分光学的な手法で明らかにする研究をここ数年行っており、最近は放射光を用いたX線吸収微細構造による地球深部での元素の酸化還元状態を解明する研究に発展してきました。
地球深部に存在しうる含水相の高圧下でのふるまいを水素結合の観点から理解する研究も継続的に進めています。
鉱物や結晶が成長する過程で微量元素がどのように働きかけ、結晶中に取り込まれていくのかを観察することも重要な研究テーマです。
いずれの場合も、試料を自分で合成し、測定手法に自分なりの一工夫を加えた上で、天然で得られる試料と比較するような研究スタイルを重視しています。

地球深部における軽元素のふるまい

高温高圧条件で鉄に水素がどのように取り組まれるか?

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純鉄に比べて外核では10%、内核では4%の密度欠損があることから、地球進化の初期過程で鉄に水素が溶解したと考えています。
高温高圧下での鉄水素化物の水素固溶量を含む結晶構造、相関係、熱力学的性質を明らかにする研究を行っています。

下部マントルでの窒素のふるまい

 

マントルを構成する鉱物に水素がどのように取り込まれるか?

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深部マントル起源の天然ダイヤモンドから含水鉱物、氷高圧相が発見され、マントルに水(OHイオン)が存在することが明らかになりました。
水素がマントル構成鉱物の圧縮・変形挙動、電気伝導度などを変える可能性があることから、マントルの高温高圧条件におけるその場観察によって鉱物中の水素の存在状態・構造を解明するために研究しています。
複雑な構造を持つ地球深部物質に対して、単純な構造を持つ金属水酸物なども研究対象にしています。高圧下で水素原子周辺の局所構造が変化する様子を中性子回折で精密に解析しています。

氷の相関係と結晶構造

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氷高圧相(ice VII)には10 mol%以上の塩類が含まれていますが、高圧下における氷-塩系の相図と結晶構造は今だ明らかになっていません。
氷衛星の内部構造を議論する上で必須情報であるこれらの関係を明らかにするために日々研究しています。
高圧下での誘電率測定などの新しい手法の開発も行いながら、新しい氷の発見に繋がるような研究も行っています。

(図: エンケラドスの内部構造の想像図。 内部海の塩水が氷の層を通過している。 (Postberg et al., 2011))

塩水和物の高圧下での相関係と結晶構造

近年、探査などによって氷天体の研究が進んでおり、天体内部から塩を含む水が噴出していることが分かっています。
氷天体内部の高圧条件では、氷や塩はどのような状態で存在しているのでしょうか? 例えば、塩化マグネシウムの水和物(MgCl2・nH2O)は常圧条件で水和数(n)は2,4, 6, 8, 12 を取りますが、高圧条件になるとさらに多様な水和物が安定となります。これらの相関係と結晶構造を高圧下でのX線回折・中性子回折で解明しようとしています。

有機物の高圧下での構造変化と圧力誘起反応

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アミノ酸のペプチド化はエネルギーの付与、あるいは触媒の存在下で進行すると考えられていましたが、高圧条件下でアラニンのペプチド化が起こることを発見しました。
氷衛星や氷惑星の内部で生体関連分子が生成する可能性について、高圧実験から検討しています。

バイオミネラリゼーションにヒントを得た無機化合物の結晶化

炭酸カルシウムは貝殻に代表されるように典型的なバイオミネラルです。炭酸カルシウムには、カルサイト、アラゴナイト、ファーテライトの3種類の多形が存在し、バイオミネラルとしてもこれらの3種類の多形が存在します。これらの多形に加えて、アモルファス炭酸カルシウム(ACC)もバイオミネラリゼーションの前駆体として機能しています。
ACCは構造に柔軟性があるため、カルサイト構造には取り込まれないSr2+やBa2+といった大きなイオンも取り込むことができます。大きなイオンを取り込んだACCを短時間で結晶化することで、Sr2+やBa2+を含んだカルサイトの合成に成功しました。大きなイオンを取り込み、単位胞体積が大きくなったカルサイトの炭酸イオンは室温下でも特異的な挙動をすることが明らかになりました。

他大学、他機関との共同研究

静水圧の加圧によって線虫の寿命を延ばす

2020年5月、宮城教育大学 渡辺尚先生、東北大学 東谷篤志先生との共同研究の成果が学術誌に掲載されました。研究室の論文リストはこちらです。

Watanabe N., Morimatsu M., Fujita A., Teranishi M., Sudevan S., Watanabe M., Iwasa H., Hata H., Kagi H., Nishiyama M., Naruse K., and Higashitani A. (2020),
Increased hydrostatic pressure induces nuclear translocation of DAF-16/FOXO in C. elegans,
Biochemical and Biophysical Research Communications, 523(4), 853-858, doi: 10.1016/j.bbrc.2020.01.047.

論文の概要:
 線虫はモデル生物として有名で、ノーベル賞受賞に3回も関わった興味深い生物です。その線虫を使って、本研究室のサファイアアンビルを用いた高圧技術を簡易に応用したところ、生きたまま線虫を固定することができました。この発見により水中で圧力(静水圧)が及ぼす遺伝子レベルの生体反応を可視化でき、静水圧の加圧に伴う遺伝子の動きを追えるようになりました。
 機械的な刺激が生物組織や臓器の恒常性維持に重要であることはよく知られています。この技術によって、適度な静水圧の加圧はDAF-16/FOXOの転写因子の速やかな核移行を引き起こすことを発見するきっかけになりました。様々な長寿遺伝子がその転写因子により活性化されることが知られています。この研究では、世界で初めて静水圧の加圧によって上記転写因子の核移行を促し、線虫の寿命を延ばすことができました。

パンのおいしさを科学する

2020年3月、茨城県東海村のJ-PARC MLFでパン生地の中性子小角散乱の測定を行いました。帝京平成大学 前田竜郎 先生、日本大学 都 甲洙 教授との共同研究です。
パン生地をミキシングする過程で、グルテンの分子構造の変化が起こっていると考えられています。構造変化を小角散乱によって観察し、おいしさの科学を追究するのが目標です。

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地球深部の窒素量を考える

2019年11月、鍵裕之教授と博士2年福山鴻君とでフランス・ナンシーにあるCentre de Recherches Pétrographiques et Géochimiques (CRPG)に滞在して、下部マントルの主要構成鉱物であるブリッジマナイトへの窒素溶解度を測定してきました。Evelyn Füri 博士らとの共同研究です。
大気の主要成分である窒素ですが、地球深部に多量に取り込まれている可能性があります。
ナンシーは雪がちらつく寒さでした。

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