2020年1月17日

Date: 16:00-18:00, Friday, January 17, 2020
Place: 105, Faculty of Science Bldg.1
Speaker:Kota Yamamoto, Wataru Takahagi

日 時:2020年1月17日(金)16:00-18:00
場 所:理学部1号館105
講演者:山本康太、高萩航

講演者1:山本康太(Kota Yamamoto)
タイトル:銅同位体比測定における生体試料中の共存金属イオンの影響
Title: Effects of coexisting metal ions in biological samples on measuring copper isotopic ratio
 生体を含め、天然の安定同位体分別は、同位体効果と呼ばれる主に質量数の差に依存した反応効率の違いにより引き起こされる。栄養状態や疾病等に伴い、生体中の同位体比が変化することが知られている。こうした学術背景から、元素のわずかな同位体組成変化を正確に捉える試みが行われている。しかし、自然環境で生じる典型的な同位体比変動の大きさは0.1 ‰から1 ‰程度と小さく、安定同位体比のメタロミクスへの応用は未だ制限されている。共存イオンによるスペクトル干渉および非スペクトル干渉は、安定同位体比データの信頼性を低下させる要因となる。本研究では、多重検出器型ICP質量分析計Nu Plasma IIを用いた銅同位体比測定において、生体試料に含まれる共存元素が分析の精確さに与える影響を評価することを目的とした。
 Na, Mg, K, Ca, Feについて[Element]/[Cu]とδ65Cuの関係を調べた結果、δ65Cuに系統誤差を生じたのはNaおよびMgに起因する質量スペクトル干渉であった。本発表では結果を定量的に議論するとともに、現在目指している応用研究についても言及する。

講演者2:高萩航(Wataru Takahagi)
タイトル:冥王代熱水環境を想定した電気化学反応場での非生物的窒素固定
窒素は生命に欠かせない元素の一つであり, タンパク質やDNA・RNA などの様々な生体高分子を構成している.しかし地球表層では主にN2として存在しており,安定な三重結合は窒素源としての利用を阻む大きなエネルギー障壁となっている.生物はFe-Mo-Sのクラスターを活性中心に持つニトロゲナーゼによってN2 を電子・プロトンと結合させアンモニアへと変換しており, この酵素反応は長年生命発生前の化学プロセスを今に残す名残である可能性が指摘されてきたがその実証に成功した報告はない.本研究では, 電子とプロトンの供給源として地球初期の深海熱水噴出孔環境における噴出孔内外の電位差を利用した電気化学反応場を想定し, 同環境において溶存窒素からアンモニアが生成する非生物学的窒素固定の存在を検証した. その結果, CO2, N2バブリング中で-1.0VSHEの電位をかけた(Fe,Ni)Sや(Mn,Fe)S (熱水中のS2–と海水の溶存イオンが混ざって沈殿した非晶質硫化物を想定)が溶存窒素 (0.65mM, 25℃, 1bar)からの非生物的窒素固定を駆動できる可能性が示された. またCO2のみのバブリングで1mM NH4Clを同様の実験系で反応させた結果, 硫化物へのアンモニアの濃集と, 微量ながらアミノ酸 (Gly, Ala)の合成が確認された. 本発表では, 熱水噴出孔周辺の電気化学場で想定される2つの窒素固定経路 (一部還元された硫化物表面での触媒反応, 溶液中での窒素錯体形成を経由した反応)を実験結果に基づいて検討・検証した結果を紹介する.