2020年1月24日

Date: 16:00-18:00, Friday, January 24, 2020
Place: 3F, Lecture room, Main Chemistry Build.
Speaker:Takato Ono, Ko Fukuyama

日 時:2020年1月24日(金)16:00-18:00
場 所:化学本館3階講義室
講演者:大野鷹士、福山鴻

講演者1:大野鷹士(Takato Ono)
タイトル:箱根山と十勝岳における火山性温泉水の高頻度自動サンプリング
Title: High-frequency auto-sampling of volcanic hot spring waters at Hakone and Tokachidake volcanoes, Japan
 火山活動は一般に地下のマグマの脱ガスに関連しており、マグマから脱ガスした揮発性成分は火山ガスとして直接または熱水系を介して地表に輸送される。水蒸気噴火を引き起こす多くの火山では熱水系が発達しており、その山頂域では噴気地帯だけでなく、火山ガスの影響を受けた火口湖や温泉水などの存在が認められる。もしマグマシステムがマグマの浅部への移動や貫入などによって変化する場合、マグマ本体から放出されるマグマ性流体において熱的、化学・同位体的変化が認められる可能性がある。それらの変動が地表に放出される火山ガスや温泉水などでも捉えられることが期待され、実際にこれまでにも数多くの火山活動の盛衰に伴う変動が捉えられてきた。しかしながら、多くの観測はキャンペーンスタイルであるため、通常のサンプリング頻度は数週間から数年程度であり、火山活動の定量的な追跡においてはサンプル数・頻度・観測期間等が不十分であった。
 そこで本研究では、サンプリング頻度の向上に向けて、市販の描写ロボットをベースに、火口域周辺から湧出する火山性水試料を採取するための野外自動サンプリング装置(G-code-Operated Field Auto-sampling Tool: GOFAT)を開発した。本発表では、箱根山と十勝岳から自然湧出する火山性温泉へのGOFATの設置状況とその後の分析によって得られた温泉水の化学組成の時系列データについてお話しする。

講演者2:福山鴻(Ko Fukuyama)
タイトル:ブリッジマナイトへの窒素取り込み量と温度の関係: マグマオーシャンの固化過程による超深部窒素貯蔵庫形成への考察
Title: Relationship nitrogen incorporation to bridgmanite and temperature: a formation of super deep nitrogen reservoir through solidification of magma ocean
窒素は地球大気の約8割を占め、生命の必須元素であることから、地球における気候、生命起源を議論するうえで重要な揮発性元素である。しかし依然として、地球内部における窒素の挙動については詳細に理解できていない。例えば、コンドライト組成によって規格化された現在の地球の窒素存在量は、他の揮発性元素の1/10未満と相対的に枯渇している (Marty, 2012)。この窒素が枯渇する原因として、マグマオーシャンの固化を経ることにより、マントル鉱物が窒素を地球深部に貯蔵した可能性が示唆されてきた(e.g. Li et al., 2013; Yoshioka et al., 2018)。しかし、下部マントルで8割近く存在するとされるbridgmaniteへの窒素取り込みに関する論文報告は、現時点でYoshioka et al. (2018)の1報のみである。この論文は先駆的であるものの、実験条件が24 GPa, 1600 °Cに限られていた。
本研究では、下部マントルへ窒素を貯蔵しうるbridgmaniteに温度によって窒素がどれほど取り込まれるか検討するため、28 GPa、1400 °C-1700 °Cの条件で高温高圧実験を行った。実験には愛媛大学GRCのマルチアンビル高圧発生装置を使用し、下部マントル相当の酸化還元状態のコントロールにはFe-FeO bufferを用いた。急冷回収試料の窒素の定量分析は、2019年11月にCRPG-CNRSに設置された高分解能SIMS (HR-1280)を使用し、窒素を15N16O-として直接検出することによって行った。
一連の実験と分析から、bridgmanite (MgSiO3組成)への窒素取り込み量は、温度が上昇するにつれて1.8から5.7 ppmへと増えることが分かった。また、現在よりも高温のマグマオーシャンからは、bridgmaniteが最初に晶出することが分かっている (e.g. Ozawa et al., 2018)。このことから、マグマオーシャンの固化過程において、bridgmaniteは下部マントル以深 (660 km~)で窒素を貯蔵する役割を果たすことが示唆された。さらに、bridgmaniteへの窒素取り込み量に圧力との相関性がないと仮定すれば、現在の下部マントルには、bridgmanite (MgSiO3組成)のみによる窒素貯蔵量が3~4PAN (PAN: Mass of Present Atmospheric Nitrogen)であることも見積もられた。