Date: 16:00-18:00, Friday, June 6, 2025
発表者:日比谷 由紀
Speaker: Yuki HIBIYA
タイトル:中性子照射-希ガス質量分析による炭素質コンドライトのハロゲン濃度定量と親天体熱履歴解読に向けて
要旨:
炭素質コンドライトは、多様な有機化合物と豊富な(脱)水和鉱物を含む隕石である。これらの親天体であるC型小惑星における熱的プロセスは、原始太陽系円盤の物理化学的進化や地球形成過程を解明する上で重要な鍵を握っている。しかし、特に太陽系形成後数千万年以降のC型小惑星における熱履歴の詳細は未だ明らかになっていない。炭素質コンドライト中のハロゲン濃度と希ガス同位体比は、C型小惑星における水-岩石相互作用と熱的プロセスを理解する上で重要な情報源となる。
本発表では、現在我々が進めている中性子照射-希ガス質量分析を用いた、複数の炭素質コンドライト中のハロゲン濃度分布と熱イベントのタイミングの同時決定について経過を報告する。加えて、最近立ち上げている非照射隕石用の希ガス質量分析計とそれを用いて今後進めようとしている研究についても紹介する。
発表者:佐藤 美彩希
Speaker: Misaki SATO
タイトル : 低温高圧下で出現する新規エタノール無秩序結晶相の発見
Title : Discovery of a new disordered crystalline phase of ethanol appearing at low temperatures and high pressures.
要旨:
エタノールは最も基本的な分子の一つであるが、高圧下におけるその相図はよくわかっていない。エタノールの固体結晶相のうち、安定な秩序結晶相としては、常圧下157 K以下で出現する低温相(空間群P21/c、以下I相と呼ぶ)(Jönsson,1995)と室温下1.9 GPa以上で出現する高圧相(空間群Pc、以下III相と呼ぶ)(Allan and Clark,1999)の2つが知られていた。さらにこれまでに、これらとは異なる結晶構造をもつ未知相がI相とIII相の間の条件で複数個見出されており、(小泉修士論文,2014)(矢部卒業論文,2021)、卒業研究では、既知, 未知の全ての結晶相における融点の圧力依存性を測定することにより、各圧力領域における結晶相間の安定関係の推定を行った。
エタノールの固体結晶相には、上記のI相, III相の他に、常圧条件で分子の配向が乱れたプラスチック相(bcc、以下II相と呼ぶ)の存在が知られていた(Haida et al.,1977など)。II相は準安定相であり、常圧下で液体を冷却し得られたアモルファスを適切な温度(110 K付近)で数時間アニーリングすることで、過冷却液体を介して結晶化させることができるとされている。しかし、その結晶化条件(アニーリング温度や時間)は文献によって異なり、よくわかっていない。そこで本研究では、ガラス状態を経由せずに、エタノールの過冷却液体から直接II相を結晶化させることができるのかを調べたところ、II相の作成、顕微鏡観察に成功した。
また、常圧下で作成したエタノールのガラスを、ガラス転移温度以下で加圧し、その後昇温させることで、常圧下でII相に相当する、新たな準安定相が高圧下で存在すると予想した。その結果、今までに報告されていない結晶構造をもつ結晶相が新たに見つかった(以下V相と呼ぶ)。また、MEM(最大エントロピー法)を用いた結晶構造の推定を行ったところ、V相は、エタノール分子が単位砲内で、ある一定方向に無秩序的に配置している可能性が見えてきた。そこで本研究では、その結晶構造や存在領域について、現時点での見解を報告する。