2026年1月23日

Date: 16:00-18:00, Friday, January 23, 2026


講演者:角森 史昭

タイトル:Development of Radon Counter for Long‑Term Autonomous Monitoring

要旨:質量数222と220の同位体を持つラドン(Rn)は、それぞれ238Uと232Thを親核種として、最終的にはPbに至る壊変形列の途中で現れる放射性希ガスである。このため、その濃度が基本的に物理過程にのみ依存することを利用して、トレーサーや状態評価などに利用される便利な元素である。一方で、放射性ガスであることが、ヨーロッパやアメリカなどのウランを多く含む地質帯にすむ住民や鉱山労働者の肺がん発生率の増加を引き起こす原因となっていて、地域によってはモニタリングが義務づけられることもある。いずれにせよ、土壌・地下水・大気といった環境ラドンの濃度を測定することは、日本ではそうでもないが、思ったよりポピュラーなのである。

 ラドン濃度の測定は、ガンマ線を測って求める方法もあるが、アルファ線を測って求めることが主流である。MeVオーダのエネルギーを持つアルファ線は、物質をほとんど透過しないので、アルファ線を直接検出することでしか測ることができない。古くから行われる方法は、アルファ線が空気中を進むときに発生する電荷を、電気的に捕集するイオンチャンバー法である。この方法は今でも標準の方法である。1990年代以降、半導体検出器による測定が盛んに行われるようになった。この方法は、検出器表面にラドンの娘核種を捕集することで計測効率を上げることができるが、まだ科学測定としては標準的な方法になってはいない。それでも、鉱山や地下室の簡易的なラドン計測では事実上標準になった。

 地下水や地層中のラドン濃度の測定は、1920年代頃から行われ、地震や断層の運動と関連している可能性が指摘されていた。およそ60年前に発生した1966年のタシケント地震では、地下水中のラドン濃度が地震前後で明確に変化していたことから一躍脚光を浴び、日本でも脇田らを筆頭に地下水ラドン濃度の観測が始められた(これが地殻化学の源流である)。それ以降、ラドン濃度の地震先行変化が、日本だけでなく世界の至る所で記録されたが、その地震との関係性に関するメカニズムを物理的に説明できず再現性も科学現象としては低いことから、いまでは余り注目されない。

 そのような中、火山活動にともなって土壌ガス中のラドン同位体比が変化するかもしれないという報告が2013年にあった(Padilla+(2013))。このような、火山活動にともなうラドン同位体比の変化はまだ報告例が少ないが、この現象がよく見られるものであれば、火山活動の前駆的な活動を捉えるよい指標になるかもしれない。土壌中の222Rnの濃度とCO2濃度は相関するらしいので、どうやらラドンのキャリアはCO2と考えて良い。そこで、222Rnと220Rnに加えてCO2濃度も同時に計測するシステムを準備し、火山山体に置くことができればこの現象の一般性を検証できる。

 現在市販品で手に入れられるラドン計測装置は1台150万円ぐらいする高価なもので、山体に埋め込んで使うのは憚られる。また、メンテナンスのためには新たに1台変えるぐらいの費用が必要になる。つまり、事実上、火山山体にラドン計測装置を埋め込むような無謀な観測は不可能である。では、安価なラドン計を自作していつでもメンテナンス可能にし、同時にCO2濃度も測れるようにすれば、山体に埋め込む観測は可能になる。これが、安価なラドン計を自作することにした大きなモチベーションである。

 半導体を用いた放射線計測の技術は豊富に存在する。これらを参考に、山体に埋め込んで自立して計測を行う機能を搭載したラドン計の開発を目指した。

 このセミナーでは、そのようなラドン計の製作に成功したので報告を行う。



講演者:森崎 律

タイトル:質量分析計による構造異性体の選択的イオン化法の開発

要旨:異性体は、同じ分子式を持ちながら異なる構造を有し、物理的、化学的、生物学的な性質に違いがある。例えば光学異性体の違いで生物に対する毒性が大きく異なることは広く知られている。このため異性体の識別は化学、生物学、薬学、医学、環境科学、食品科学といった広範な分野において重要な分析課題となっている。しかし、質量分析法(MS)は高感度かつ選択制の高い分析手法であるにもかかわらず、異性体は同一の質量電荷比(m/z)を示すため、通常のMSによる直接的な識別は困難であった。そこで本研究では、ICP-MS/MSを用いた有機分子測定法を応用し、構造異性体の識別を試みた。

 本研究では、ICP-MS/MSのコリジョン/リアクションセルを用いたイオン反応を利用して、構造異性体(シクロヘキサンおよびtrans-3-ヘキセン)に対し金属付加反応(Cationization)を行い、反応効率の構造依存性を調べた。反応イオン(一次イオン)として35種の元素(Li+, Be+, Na+, Mg+, Al+, Sc+, V+, Cr+, Mn+, Fe+, Co+, Ni+, Cu+, Zn+, Ga+, Ge+, As+, Se+, Rb+, Sr+, Y+, Zr+, Mo+, Ru+, Rh+, Pd+, Ag+, Cd+, In+, Sb+, Cs+, Ba+, Tb+, Tm+, W+)を系統的に用い、カチオン化反応収率およびマススペクトルパターンを比較評価した。実験の結果、カチオン化効率は構造異性体と一次イオンの組み合わせに依存することが明らかとなった。例えば、Ni+やZn+はシクロヘキサンに対して高い反応効率を示した一方、Al+, Cd+, In+はtrans-3-ヘキセンに対して優先的にカチオン化した。また、反応させる元素によってスペクトルパターンが顕著に異なることからも、本手法による構造異性体の選択的イオン化が可能であることが示唆された。