2026年1月30日

Date: 16:00-18:00, Friday, January 30, 2026



講演者: 平田 和


題目:乳化水を用いた高圧氷VIIおよびVIIIの融解挙動観測とサマリウム圧力マーカーによる温度補正

要旨: 高圧下における水の相挙動、特に氷VII(水素無秩序相)と氷VIII(水素秩序相)の転移や融解プロセスの解明は、高圧物理学および惑星科学の根幹をなす課題である 。本研究では、界面効果や閉じ込め効果を利用してメタステーブル領域での相境界拡張を狙うため、純水の代わりに油中に水滴を分散させた乳化水試料(emulsion)を用いた 。 実験にはダイヤモンドアンビルセル(DAC)を用い、放射光X線回折測定(XRD)によって結晶構造を同定した 。Emulsionは、有機溶媒(メチルシクロヘキサンとメチルシクロペンタンの1:1混合液)に界面活性剤であるトリステアリン酸ソルビタンを加え、超音波ホモジナイザーを用いて水を乳化させた 。このemulsionをDAC内に封入しPF(BL18C)で行った測定では2.1 GPa付近において265 Kまで冷却しても氷VIIが残存しており、氷VIIIへの完全転移にはさらなる低温化が必要であることが示唆された 。 また、Plastic Ice VII領域を含む高温高圧下での融解挙動を詳細に調査するため、新たなDAC(Diacell Helios DAC)を導入し、ガスケットも従来のSUSガスケットからインコネルガスケットへ変更するなど測定条件も大きく変わった。 この新システムを用い、定圧下での昇温過程による氷VIIの融解を試みたが、理論上の融解曲線を超過しても融解が確認されない、また、圧力が一定に保たれず、減圧し続けてしまうという現象に直面した。この原因を追究するため、従来のルビー(Ruby)に加えて、温度依存性の小さい圧力マーカーであるサマリウムドープホウ酸ストロンチウム(Sm2+:SrB4O7)を導入し、サンプル部の実温度を評価した。その結果、外部ヒーターの指示値とサンプル室の実際の温度との間に大きな乖離があることが判明した。本発表では、このSm2+:SrB4O7を用いた温度補正に基づく実験データを示し、乳化水における氷VIIの真の融解挙動について議論する。 



講演者: 朱 子鵬

Speaker: Zinpeng Zhu

Title: Three-Dimensional Analysis of the Enrichment of Several Incompatible Elements at Grain Boundaries 要旨:

希土類元素(REE)は、原子番号に対応して鉱物間での分配係数が系統的に変化する。この特徴を活かし、希土類元素の相対的な元素存在度(希土類元素存在度パターン)を用いることで、岩石の溶融・結晶化過程に関する様々な知見を引き出すことが可能である。一方で、希土類元素は多くの鉱物にとって不適合元素(Incompatible Elements)であるため、岩石全体に含まれる希土類元素の存在度を、造相鉱物の集合体として単純に説明することはしばしば困難である。こうした背景から、希土類元素を含む様々な不適合元素が、粒界などの微細構造に局所的に濃集する可能性が指摘されてきた。しかし粒界は、明瞭な結晶構造をもたない複雑な固相混合物であり、分析学的観点からも正確な元素濃度の測定が困難であったことから、これまで粒界を含めた固相全体での不適合元素の分配に関する議論は限定的であった。
 
そこで本研究では、標準岩石として広く利用されてきた花崗岩標準試料 JG-1(地質調査所) に注目し、希土類元素を含むいくつかの不適合元素の三次元分布を可視化することを目的とした。JG-1 を用いる利点として、主成分・微量成分組成、鉱物組成および存在度に関する精密なデータがこれまでに数多く報告されており、本研究における元素分布解析の基盤データとして活用できる点が挙げられる。
 
分析にはレーザーアブレーション―誘導結合プラズマ質量分析法(LA-ICP-MS)を用いた。局所サンプリングによる二次元マッピング分析を深さ方向に繰り返す逐次層状測定により、二次元および三次元分布像を構築した。JG-1 をおおよそ 10 mm × 10 mm のブロック状に切断した後、樹脂包埋し、ダイヤモンドペーストを用いて研磨した。試料表面のおよそ 5 µm を用いて二次元イメージング分析を行った後、研磨機による再研磨を施し、約 50 µm 間隔で二次元イメージングを繰り返すことで三次元分布像を取得した。データの可視化には、鈴木先生が開発した iQuant3D を用いた。
 
分析対象元素として、La、Ce、Eu、Yb などの希土類元素に加え、Sr、Th、U などの年代測定に重要な元素を選択した。また、希土類元素の濃集に関与するジルコンの分布を評価する目的で Zr を、さらに Si、P、Mg、Ca などの構造参照元素を併せて分析した。
 
予察的な結果ではあるものの、希土類元素の総量が、各鉱物相における(濃度 × 体積)の単純な総和と一致しない可能性を示唆する分布パターンが確認された。本研究を通して、定量的な三次元元素イメージングを構築し、粒界富集を考慮した、より現実的な元素分配モデルの構築を目指す。