Date: 16:00-18:00, Friday, May 23, 2025
発表者:岩野英樹
Speaker: Hideki Iwano
タイトル:LA-ICP-MS ジルコンU−Th非平衡/フィッショントラックダブル年代測定と完新世火山試料への応用
Title: LA-ICP-MS U−Th disequilibrium/fission-track double dating for zircon and its application to Holocene volcanics
要旨:
マグマ中で晶出した結晶には、温度や圧力、化学組成といった物理情報や時間情報が記録されている。UやTh が 放射壊変する過程で生じる一連の 娘核種は,半減期が数日から数万年のものまで多数存在する。これらのウラン系列短寿命核種を利用した年代測定は ,火山直下で生じているマグマプロセスを明らかにするのに最適なトレーサーになる。その一つとしてウラン系列の中間生成物であるトリウム230(半減期7.5万年)を利用した238U−230Th放射非平衡年代測定法(以下U−Th法と略す)は1万〜数10万年の年代軸を入れることができる。一方、ウランが自発核分裂をした際の傷が時間ととに蓄積し、その密度が年代の関数になっていることを利用した年代測定法としてフィッション・トラック(FT)法がある。すなわち、U−Th年代は結晶ができてから動き出す結晶化年代の時計として、FT年代はマグマ噴出後の冷却年代時計として用いられる。この2つの年代差によってマグマの発生から移動(噴出)までの時間として定量化できる。発表者は、これまでに後期更新世(12.6万年前〜1.17万年前)の火山岩試料にU-Th/FTダブル年代測定法を適用し、手法の有用性を確認した。
本発表では次のチャレンジとして完新世(1万1700年前〜現在)火山岩の年代測定例を紹介する。試料は、九州雲仙火山の眉山火山を選んだ。その理由として、(1)数多くの熱ルミネッセンス(TL)年代や炭素14年代値でその出現が約4600年前と推定されていること(尾関他, 2005, 火山, 50, 441-454)、(2)既報ジルコンF T年代(5.1±1.5ka)があること(檀原他, 1993, 日本火山学会講演要旨集,51)、(3)ジルコン、アパタイトが含まれており、U−Th分析が可能なこと、がある。ジルコン-アパタイトの鉱物アイソクロンU−Th年代を求めたところ12+/-3 kaが得られた。本発表までには、ジルコンLA-ICP-MS FT年代値を決定し、完新世年代測定の現状を報告したい。
発表者:佐南谷光
Speaker:Hikari Sanatani
タイトル:希ガス・炭素同位体とハロゲン組成に基づくブラジル・ロシア産ダイヤモンドの起源に関する研究
要旨:天然ダイヤモンドはその多くが深さ 150-200 km 程度のマントル中で生成されるが、一部のダイヤモンドはさらに深い、マントル遷移層以深(>660 km)の超深部起源であることが知られている。希ガスは地殻やマントルといったリザーバーごとに同位体比が異なる、地球内部の物質循環の有用なトレーサーである。本研究では、ダイヤモンド中の希ガスを指標に、沈み込む地殻からマントル深部までの物質循環を明らかにすることを目的とした。試料はロシア・シベリアのニュルビンスカヤキンバーライトと、超深部起源ダイヤモンドが産出することで知られる、ブラジル・ジュイナのキンバーライトから産出したものを扱った。ニュルビンスカヤの試料のヘリウム同位体比(3He/4He)は大陸下マントルから対流マントル程度の値が多いのに対し、ジュイナの試料は同位体比が高く 4He 濃度が低いグループと、同位体比が低く 4He 濃度が高いグループに分かれた。前者の試料のうち最も高い3He/4He を示す試料は、マントル最深部から上昇してきたプルーム起源である可能性がある。一方で後者の低い 3He/4He は、マントルに沈み込んだ地殻物質の影響を受けた環境で試料が生成した可能性を示している。今後はハロゲン組成や炭素同位体比などから、これらのダイヤモンドの起源をさらに明らかにしていくことを計画している。