Date: 16:00-18:00, Friday, May 9, 2025
発表者: 上園 麻希
Speaker: Maki Uezono
タイトル: ICP-MS/MSを用いたアルカリ土類金属イオンによるベンゼンのイオン化挙動とHSAB則への適合性の検証Title: Verification of Benzene Ionization Behavior and HSAB Principle Compatibility of Alkaline Earth Metal Ions Using ICP-MS/MS
要旨:
有機分子と金属イオンが結合することで、電子状態や分子構造、機能、反応性が大きく変化し、新たな物理的・化学的・生物学的特性が発現する。これらの特性を活用することで、触媒やセンサーなどの高機能材料が設計可能となり、分子設計における可能性が飛躍的に拡大する。
このような分子間相互作用の理解と新規材料の創出において、HSAB(Hard and Soft Acids andBases)則(Pearson,1963)は、金属イオンと配位子の親和性を予測する理論として広く用いられてきた。しかし、HSAB則は溶液中での反応傾向をもとに構築されたものであり、気相中の反応系への適用可能性は十分に検証されていないのが現状である。
これまでに、エレクトロスプレーイオン化–四重極イオントラップ質量分析計(ESI-QIT/MS)を用いて、気相中における金属錯体と有機分子の反応挙動がHSAB則に従うかを調べた先行研究(Combarizaand Vachet, 2002)が報告されているが、ESI法では金属イオンの直接的な気相中イオン化が困難である。
そこで本研究では、ICP-MS/MS(誘導結合プラズマ–タンデム質量分析計)に着目し、金属イオンの標準液をICPに導入して高感度かつ選択的に金属イオンを生成し、コリジョン/リアクションセル(CRC)に有機分子を直接導入することで、セル内における気相中イオン–分子反応を実現した。
有機分子として柔らかい塩基に分類されるベンゼン、金属イオンとしてアルカリ土類金属イオン(ベリリウム、マグネシウム、ストロンチウム、バリウム)を用い、ベンゼンのイオン生成率を指標として、反応傾向がHSAB則に従うかを検証した。その結果に基づき、HSAB則の気相反応系への適用可能性について考察を行った。
発表者: 大西恵理
Speaker: Eri Onishi
タイトル: レーザー強度が液中レーザーアブレーション法によって抽出した粒子に及ぼす影響の評価
Title: Evaluation of the Effect of Laser Power on Particles Extracted by Laser Ablation in liquids
要旨:
鉄より重い元素を合成する過程として準静的なs-processと爆発的なr-processが存在する (Burbidge etal., 1957) 。r-processが起こる場について、中性子星合体 (Siegel, 2022) や、特殊な超新星爆発(Thielemann et al., 2017)が候補として挙げられているが、不明な点も多い。古い恒星の元素存在度は1回のr-processイベントでの元素合成量を反映していると考えられ、その測定結果は太陽系の値と近しい値を示している(Sneden et al., 2000) 。しかし、恒星の観測では、同位体比のデータはほとんど取得できない (Roederer IU etal., 2008) 。同位体比のデータは計算予測の結果と比較することで、r-processイベントの解明につながる (RoedererIU et al., 2008) 。そこで、本研究では、元素合成の物質的な証拠、プレソーラー粒子の同位体比分析に着目した。
分析対象の元素として、r-processの寄与が大きく、r-processイベント間の違いを反映していると考えられ、さらに、白金194、白金195が同程度存在しており、さらに同重体干渉を受けないため、同位体比測定に有利である白金に着目した。隕石中で白金は、難揮発性金属ナゲットに含まれている(Schwander et al., 2014) 。先行研究 (Croat et al., 2013)ではプレソーラー難揮発性金属ナゲットはプレソーラーグラファイト中に含まれていた物しか報告されておらず、白金を含むプレソーラー粒子については多くの情報を集めるべく、効率石なサンプリング法が必要である。
プレソーラー粒子を取り出す方法として酸分解法による耐酸性粒子の単離、抽出(Amari et al.,1994)が存在する。この方法では酸に溶解する粒子の抽出は不可能であるため、本研究では、様々な種類の鉱物をサンプリング可能(Kurihata et al., 2023) な液中レーザーアブレーション (LAL) 法 (Okabayashi et al.,2011) に着目した。本実験では、レーザーによる粒子の破砕、凝集を防ぎつつ、LAL法で効率的に粒子をサンプリングする条件を探るため、粒径の揃った標準粒子を利用した固体サンプルを用いたレーザー条件の評価を行った。