2020年11月13日

Date: 16:00 – 18:00, Friday, November 13, 2020

講演者:山下 修司

Speaker: Shuji Yamashita

タイトル: LA-ICP-MS法によるナノ粒子・溶存イオンの同時定量イメージング

Title: Quantitative imaging of nanoparticles and elements using LA-ICP-MS

 ナノ粒子の生体に対する毒性試験が行われている.先行研究では,粒径の違いによる急性毒性の影響や(Cho et al., 2018),ナノ粒子の溶解で生じたイオンによる代謝異常を報告している(Wagner et al., 2010).このように,ナノ粒子は粒径の違いで健康影響に差異があることに加え,溶解により生じたイオンも悪影響を与えることが懸念される.こうした背景を受け,細胞または生体組織内でのナノ粒子の粒径情報に加えて,イオンの濃度・分布情報も入手可能な分析技術の開発が望まれている.
 生体試料内のナノ粒子・元素分析法として,レーザーアブレーション試料導入法(LA法)とICP質量分析法(ICP-MS)を組み合わせたLA-ICP-MS法がある.LA-ICP-MS法によるナノ粒子の粒径分析は報告されているが(Yamashita et al., 2019),元素濃度の定量分析を同時に行った報告はない.LA-ICP-MS法による元素濃度の定量分析には,分析試料とマトリックス組成が一致した標準試料が必要である.一般的に,標準試料にはアメリカ国立標準技術研究所が作製した標準ガラス試料が用いられているが、主成分が二酸化ケイ素であるため炭素を主成分とした生体試料の定量分析には適していない.そこで本研究では,光硬化樹脂に金属元素を添加することで標準試料を作製し,生体試料における元素濃度の定量分析の達成を目指した.本発表では,LA-ICP-MS法による生体試料中のナノ粒子の粒径分析に加えて,溶存イオンの定量分析,さらにナノ粒子・溶存イオンの同時イメージング分析を行った結果を紹介する.

講演者:市東 力

Speaker: Chikara Shito

タイトル: 高温高圧中性子回折からみた鉄ニッケル合金水素化物中の水素原子のサイト占有率

Title: Site occupancies of hydrogen atoms in iron-nickel hydride observed by high-PT neutron diffraction.

 地球核の密度欠損を説明する軽元素の候補として水素が挙げられる。原始地球形成の初期段階で鉄に水素が固溶して入り得ることが高温高圧中性子回折実験によって明らかになった。しかし、地球核における水素の存在量やその占有サイトなどは未だ解明されていない。また、地球核に存在する鉄は数wt%のニッケルを含むと考えられるため、鉄の水素化に与えるニッケルの影響を調べることは非常に重要である。本研究では、Fe0.9Ni0.1を高温高圧下で水素化させて中性子回折測定を行い、水素原子の占有率や鉄の水素誘起体積膨張にニッケルが与える影響を調べた。
 Fe0.9Ni0.1Dxの高温高圧中性子回折測定は、J-PARC MLFにあるビームラインBL11 PLANETで行った。水素源として、軽水素による中性子の非干渉性散乱を防ぐため、 ND3BD3を用いた。高温高圧発生装置として6軸マルチアンビルプレス『圧姫』を用いた。重水素量x = 0.48 (Run 1)、0.78 (Run 2)になるように水素源を仕込んで、計2回の実験を実施した。いずれの実験においても、高温高圧下でND3BD3を分解させ、生成した重水素をFe0.9Ni0.1と反応させた後、圧力~11 GPa、温度300–950 KにおいてFe0.9Ni0.1Dxの中性子回折測定を行った。取得したプロファイルに対してRietveld解析を行い、格子パラメータやD原子の占有率を決定した。
 Rietveld解析の結果、11.7 GPa、950 Kにおいて、fcc Fe0.9Ni0.1DxのD原子は八面体サイトのみを占有し、四面体サイトを占有しないということが明らかになった。これは同じ温度圧力条件でのfcc FeDxと一致する結果であった。一方、約6 GPaにおいてfcc FeDxのD原子が四面体サイトを約10%占有するというMachida et al. (2014) の結果とは異なっていた。また、D原子の占有によるFe0.9Ni0.1の水素誘起体積膨張係数vDを求めると、fcc, hcp, dhcp すべてにおいて3 Å3を超える非常に大きい値となった。これまでに報告されている3d遷移金属のvD(H)は1.7-2.6 Å3の範囲に収まる(e.g. Fukai et al., 2005) ため、今回の実験中に軽水素が混入したことで水素量を過小に見積もっている可能性が高いと考えられる。本発表では、実験結果と共に軽水素混入の可能性について検討を行った結果についても議論したい。