Date: 16:00 – 18:00, Friday, April, 14, 2023
発表者:伊藤健吾
Speaker:Kengo Ito
タイトル:高精度Fe-Ti酸化物Pb–Pb年代測定法の開発
Title:Development of high-precision Pb-Pb dating of Fe-Ti oxides
地球や惑星の進化を理解するためには、正確な年代測定が不可欠である。さまざまな放射年代測定法の中で、Pb–Pb年代測定法は初期太陽系物質(隕石など)の絶対年代を最も正確かつ精密に決定してきた(Connelly et al., 2012)。
さらに、この年代測定法は放射起源のPbに富む相があれば、単一相から年代測定が可能であることも利点である(Frei and Kamber, 1995)。隕石について見てみるとこれまで、コンドライト中のカルシウム・アルミニウムに富む包有物(CAIs)やコンドリュール、エコンドライト中のジルコン、リン酸塩、輝石が高精度Pb–Pb年代計として広く利用されてきた。しかし、隕石中でジルコンの産状は稀であり、リン酸塩や輝石のU–Pb系は二次的な擾乱によって乱されることが多い。
そこで本研究では新たな高精度Pb–Pb年代計として、Fe-Ti酸化物(とくに、イルメナイト [FeTiO3]、マグネタイト [Fe3O4]、ウルボスピネル [Fe2TiO4])に着目した。イルメナイトは地球および月岩石中に普遍的に産出し、マグネタイト-ウルボスピネル系は地球や小惑星の古地磁気の研究に利用されており、その年代測定法を確立することは太陽系進化の理解において重要である。しかし、これらの鉱物のPb–Pb年代測定への応用は地球上の岩石に限られており、隕石中のFe-Ti酸化物のPb–Pb年代を求める試みはなかった。Fe-Ti酸化物の高精度Pb–Pb年代測定における最大の課題は、Fe-Ti酸化物のU濃度が低く、他の鉱物との複雑な鉱物共生関係のために、Fe-Ti酸化物由来のPb同位体比を正確に決定するのが困難であることである。本発表では、Fe-Ti酸化物のために開発した酸浸出法と同位体希釈ー表面電離型質量分析法(ID–TIMS法)を組み合わせた高精度Pb–Pb年代測定法を、いくつかの地球上および隕石試料に適用した結果を紹介する。あわせて、今後の研究計画について紹介する。
発表者: 森田 千歩
Speaker: Chiho Morita
タイトル: 湿潤条件下におけるアスパラギン酸を含む非晶質炭酸カルシウムの結晶化
Title: Humidity-induced crystallization of amorphous calcium carbonate doped with aspartic acids
有機物と無機物の複合体であるバイオミネラルは、有機物の高い靭性と無機物の高い硬度の双方の特長を持ちあわせているため、環境にやさしい新材料として注目されている。そのバイオミネラルの代表的存在として炭酸カルシウムが挙げられる。
本研究の目的は3つあり、第一にバイオミネラルである炭酸カルシウムを、生物が経験しえないような高温高圧下でなく、より生物にとって身近な湿潤条件下での結晶化により生成させることである。第二に、アスパラギン酸添加カルサイトの格子歪みに関して先行研究において矛盾する結果が報告されており、この矛盾を解決することである。そして第三に、その研究の過程で出発溶液中のpH変化により結晶化後の試料の多形の優位性に大きく差異が生じることが判明したため、その原因を探ることである。
本研究では、アスパラギン酸ナトリウムを添加したACCを異なる2種類のpHで作製し、それを室温湿潤条件下で結晶化させることで、アスパラギン酸添加カルサイトを生成し、純カルサイトと比較することでこれらの目的にアプローチした。
前セミナーではpHを上げて作製した試料のみに着目し結晶格子歪みについて発表したが、今回は添加したアスパラギン酸の量とpH変化の2つのパラメータそれぞれによる差異について発表する。