2025年7月25日

Date: 16:00-18:00, Friday, July 25, 2025



発表者:小松一生
Speaker: Kazuki Komatsu

タイトル:水素ハイドレートの秩序-無秩序転移
Title: Order-disorder transition in hydrogen hydrate

要旨:
氷には、氷IhやIcから氷XX?に至るまで多数の構造多形が知られている。この多様性は、水分子の四面体構造、水素結合の柔軟性、さらに水素原子配置の秩序・無秩序性に起因する。多くの氷相は秩序–無秩序の対(例えば氷Ihと氷XI)を形成するが、氷II、Ic、IV、XVI、XVIIには対応する相が確認されていない。特に氷IIは秩序相のみを持つ特異な例である。近年の分子動力学計算により、氷IIの無秩序相は融点より高温でしか安定しない可能性が示され、現実的条件下での存在は難しいと考えられている。一方で、氷IIと同じホスト構造を持つ高圧相「C1水素ハイドレート」では、C1の無秩序相に対応する「C1′相」の存在が報告され、理論計算による安定性も議論されてきた。本研究では、C1およびC1′に対し高圧その場中性子回折実験を行い、秩序–無秩序転移の実験的検証を試みた。その結果、約300 K付近で構造転移が観察され、差フーリエ図から、一部の水素結合で無秩序的配置が確認された。




発表者:趙(チョウ) 馨雅
Speaker : ZHAO XINYA

タイトル:誘電体バリア放電イオン源を用いた試料導入量増加によるイオン化特性の検討
Title : Investigation of Ionization Characteristics with Increased Sample Introduction Using a Dielectric Barrier Discharge Ion Source

生体内には多様な生体分子と金属元素が存在し、それぞれ重要な機能を担っている。金属元素の役割を通じて生体機能を理解する研究分野はメタロミクスと呼ばれ、近年急速に発展している(原口ら, 2020)。これに伴い、生体内の金属濃度や分布を分析するさまざまな手法が開発されてきた。その中で、レーザーアブレーション試料導入(LA)とICP質量分析法(ICP-MS)を組み合わせたLA-ICP-MSは、生体中の微量金属元素を高感度に定量分析可能であり、さらにイメージング分析により元素の分布も取得できるという点で広く用いられている。しかし、金属の情報のみでは生体機能の理解には不十分であり、近年は金属と生体分子の同時分析が求められている。LA-ICP-MSはppbレベルの金属定量が可能な一方で、ICPの高温(約8000℃)により分子が原子レベルまで破壊され、生体分子情報が失われてしまうという課題がある。
そこでこれまで研究室では、LA試料導入と組み合わせ可能な低温大気圧イオン源を開発し、ICP-MSと新規イオン源の併用による金属元素と生体分子の同時イメージング分析法の開発を行った。生体分子分析のための低温大気圧イオン源として、誘電体バリア放電イオン源(DBDI)に着目しており、これまでの研究から分子構造を壊さずにイオン化可能であることが分かった。(Khoo et al., 2022)
しかし、実際の生体試料では多様な分子が共存するため、各分子の定量性やイオン化効率への影響評価は未だ十分とは言えない。混合試料(アミノ酸同士やアミノ酸と他物質)を用いたこれまでの実験から、以下のポイントが示唆されている。
① 異なる種類の物質が共存すると、混合物質の性質に応じてイオン化効率が変動する。
② 試料導入量を過剰に増やすと、同一種類のアミノ酸間でもイオン化競合が生じる可能性がある。
本実験では②の現象に着目し、同種分子間の競合影響を最小限に抑えるため、DBDIイオン源を用いて単一成分試料の導入量を段階的に増加させ、そのイオン化効率と競合の発生限界を定量的に評価する。さらに、プロトン供給の増強策を検討し、イオン化限界を拡張することで分子間競合による定量精度の低下を抑制することを目指す。