2018年10月26日

Date: 16:00-18:00, Friday, October 26, 2018
Place: 3F, Lecture room, Main Chemistry Build.
Speaker:Yusuke Miyajima

日 時:2018年10月26日(金)16:00~18:00
場 所: 化学本館3階講義室
講演者:宮嶋 佑典

タイトル:炭酸塩岩の有機地球化学分析から探る冷湧水メタンの起源
Title: Origin of methane at ancient methane seeps inferred from organic geochemical signatures in seep carbonates

要旨:
海底の冷湧水は,地殻内から海洋への物質輸送を担い,光合成に依存しない化学合成生態系を支えている.冷湧水にはメタンが含まれ,その起源は湧水の起源深度や湧出プロセス,地殻内の水循環を知る手掛かりとなる.地質時代の古冷湧水に含まれていたメタンの起源は,地質学的な背景などから推測されているのみで,それを特定する方法は確立されていない.メタンの主な起源には,地下浅部の微生物活動によるものと,地下深部での有機物の熱分解によって生成したものがあり,両者はメタンの炭素安定同位体比などから判別できる.冷湧水中のメタンが微生物によって嫌気的に酸化されると,炭酸塩岩が形成される.博士研究では,冷湧水炭酸塩岩に含まれる微生物の脂質バイオマーカー(分子化石)と,炭酸塩残留ガスの炭素同位体比を用いて,古冷湧水メタンの起源を推定した.
日本海周辺地域で採取した中新世~更新世(約1700万~50万年前)の冷湧水炭酸塩岩を対象に,バイオマーカーの抽出および分子レベル炭素同位体比分析を行った.炭酸塩岩からは,メタン酸化を担う嫌気的メタン酸化古細菌の脂質バイオマーカーであるペンタメチルイコサンなどが抽出され,それらは-100‰(vs. VPDB)以下の非常に低いδ13C値を示した.世界各地の現世冷湧水のデータをもとに,メタンと脂質分子の間の炭素同位体分別を見積もり,また両者の回帰式を導出することで,バイオマーカーのδ13C値から古冷湧水メタンのδ13C値を逆算した.その結果,メタンのδ13C値はおおむね-50‰より低かったと推定され,更新世以前の日本海地域では地下浅部で生成した微生物メタンが主に湧出していたことがわかった.この結果は,地下深部から熱分解メタンが湧出する現在とは異なる湧出プロセスを示唆する.
炭酸塩岩を粉末化して酸で溶解させたところ,メタン,エタン,プロパンといった残留ガスの抽出に成功した.抽出されたガスは幅広いδ13C値と分子組成を示し,熱分解起源と微生物起源のいずれの可能性も否定できない結果となった.残留ガスの中には,δ13C値が-80‰以下にもおよびエタン,プロパンに富むという,一般的な熱分解/微生物ガスとは異なる特徴を示すものもあった.これらの残留ガスは,炭酸塩岩が形成後埋没する過程で,炭酸塩内部のδ13C値の低い有機物が二次的に熱分解して生成したものと考えられる.一方で,抽出されたメタンの濃度は二次的な熱分解ガスだけでは説明できず,微生物起源のメタンが混合している可能性がある.メタンと炭酸塩のδ13C値が有意な正の相関を示すことや,炭酸塩結晶中に多数の微小な間隙が見られることから,湧水中の微生物メタンが炭酸塩結晶内部に一部保存されていると結論づけた.