2019年6月14日

Date: 16:00-18:00, Friday, June 14, 2019
Place: 3F, Lecture room, Main Chemistry Build.
Speaker:Yoshiki Makino, Keishiro Yamashita

日 時:2019年6月14日(金)16:00-18:00
場 所:化学本館3階講義室
講演者:槇納好岐,山下恵史朗

講演者1:槇納好岐(Yoshiki Makino)
タイトル:高速多点レーザーアブレーション-ICP-MSによる金属鉄中の主成分から微量成分までの定量分析
Title: Determination of major to trace elements in metallic materials using multiple spot-laser ablation-ICP-MS
要旨:隕石中に含まれる金属鉄は、それらの形成環境を反映した元素組成を示す。特に金属鉄に含まれる微量元素はそれぞれ物理化学的性質が異なることから、金属鉄の形成環境を調べるための重要なツールである。
これまで金属鉄中の微量元素を分析する手法として、高感度なレーザーアブレーション-誘導結合プラズマ質量分析法(LA-ICP-MS)が用いられてきた。LA-ICP-MSでは電子顕微鏡で測定が困難なng/g程度まで検出可能であることから、微量元素の組成を測定することが可能である。
LA-ICP-MSによる定量分析に際しては、マトリックスが揃った複数の濃度水準を用いた検量線法が用いられる。しかし、LA-ICP-MSなど一般的な固体試料分析においては、溶液試料と異なり標準試料の希釈・濃縮ができないため、任意濃度範囲の検量線を得ることが困難である。特に、工業材料と異なり天然試料の分析に際しては、標準試料が整備されておらず、正確な定量分析を行うことは困難であった。
そこで我々は固体試料の希釈・濃縮により任意の濃度範囲の検量線を得るための手法として、高繰り返しのレーザー光源および可動式のミラー2枚によるガルバノ光学系を用いた高速多点レーザーアブレーション法を開発した。本手法によって、複数の固体試料をほぼ同時にアブレーションし、混合してICP-MSへ導入することが可能である。このため高濃度の標準試料と低濃度の標準試料を混合することで、元素濃度の調整が可能となり任意の濃度範囲の検量線を作成することができる。
本研究では開発した手法を様々な金属鉄試料(鉄隕石・低合金鋼・ステンレス・工具鋼)に適応し、分析性能について評価した。実験では高濃度と低濃度の2水準を混合し作成した検量線を用いて、濃度範囲が主成分から微量成分までに渡る金属鉄中の4元素(Cr, Ni, Co, Cu)の定量分析を行なった。得られた定量値は概ね文献値と10 %以内で一致する結果が得られた。以上の結果から、高速多点レーザーアブレーション-ICP-MSは、標準試料が未整備である微量濃度範囲の分析に際しても、正確に定量分析可能であることを示した。
本手法は宇宙地球試料の主成分から微量元素濃度を正確かつ高い精度で測定可能な強力なツールであると考えられる。本発表では、高速多点レーザーアブレーション-ICP-MSの動作原理、金属鉄の分析結果について言及する。

講演者2:山下恵史朗(Keishiro Yamashita)
タイトル:高圧氷VII結晶構造中に取り込まれた塩による影響
Title: Effects on salty ice VII induced by incorporated salt ion
要旨:水は生命活動をはじめとした身の回りの自然現象に深くかかわっている。水は優れた溶媒として電解質をイオンとして安定化し、その循環や各種反応に大きく影響を与えている。そんな液体の水とは対照的に固体の氷Ihは高々ppm程度の量しか取り込まれず、塩と氷は別個に扱われてきた。しかし2 GPa以上で安定な高圧氷VIIには%濃度まで塩が取り込まれ、低温でのアモルファスを経由することで準安定により高濃度に塩を構造中に含む氷VIIが形成されると報告されている。これらの塩氷VIIには、単位格子体積や水素秩序相である氷VIIIへの相転移温度といった諸性質において純粋の氷VIIからの変化が見られる。取り込まれた塩の強い静電相互作用の影響などと考えられているが、高圧その場観察実験における技術的問題もあって、氷VIIに見られる変化に対する塩の影響の程度や構造中に取り込みうる塩濃度の限界などは詳しく議論できなかった。
本研究では、高圧下で安定な塩水和物で結晶構造が決定されているMgCl2を対象として、X線回折実験を使って塩氷VIIの単位格子体積の増加と氷VII-VIII相転移温度の低下を観測した。また、塩氷VIIと共存する塩水和物の量比を基に、間接的ではあるが氷VII中に取り込まれているMgCl2を定量し、その影響に対する系統的な理解を試みたため、本発表ではそれらの結果を報告する。