2021年6月4日

Date: 16:00 – 18:00, Friday, June 4, 2021 

日時: 2021年6月4日(金)

講演者:趙 政皓

SpeakerSpeaker:Zhenghao Zhao

Title:Search for High-Pressure Behavior of Cobalt Sulfate Hydrates: A New High-Pressure Phase

硫酸塩水和物鉱物、特にMgSO4水和物はエウロパなどの氷衛星には存在すると推測されているため、その高圧挙動に関する研究は近年進んできた。内に、1水和物の研究が最も行われた(e.g. M. Ende, 2020)。水和数の高い水和物について、MgSO4·7H2O (W. Wang et al. 2018) とMgSO4·11H2O (A. D. Fortes et al. 2017) は圧力の増加の伴い、脱水する傾向を表した。一方、水和数が高い遷移金属硫酸塩水和物の高圧挙動について、まだ十分に研究されていない。遷移金属はd電子をもち、うちにd4~d7の電子配置をもつものは圧力によってスピン転移も発生するため、 MgSO4水和物と違う相転移が発生する可能性があると考えた。また、Coイオンについて、ハイスピン状態ではd7配置(Co2+)はd6配置(Co3+)より安定するが、ロースピン状態になると真逆なので、酸化還元性の変化も表せると考えている。本研究では、Coの硫酸塩水和物であるCoSO4·6H2Oの高圧挙動を着目した。
本発表では、昨年新たに発見したCoSO4水和物高圧相の構造をはじめ、その高圧実験の結果、および今後の展望について紹介する。

講演者:仁木 創太

Speaker:Sota Niki

タイトル:柘榴石ウラン–鉛年代測定による三波川帯エクロジャイト相変成作用の温度圧力時間条件推定

Title: Pressure-temperature-time estimation of the eclogite-facies metamorphism in the Sanbagawa belt based on garnet U–Pb geochronology

変成鉱物形成時の温度圧力時間(P-T-t)条件を推定することにより,過去の構造運動履歴を復元することが可能となる.本研究で着目する変成鉱物は柘榴石である.柘榴石は変成岩中に一般的に産し,温度圧力時間(P-T-t)条件推定に有用である.それは柘榴石に包有されている変成鉱物との共生関係を用いて形成時の温度圧力条件を,柘榴石に対する放射年代測定を用いて形成時期を決定できるからである.柘榴石に適用可能な年代測定法はサマリウム–ネオジム(147Sm–143Nd)年代測定法,ルテチウム–ハフニウム(176Lu–176Hf)年代測定法,ウラン–鉛(238U–206Pbおよび235U–207Pb)年代測定法である.しかしながら,147Sm–143Nd年代測定法および176Lu–176Hf年代測定法は鉱物試料の溶解を前提とする手法であるため,得られた年代値と変成鉱物との共生関係から推定したP-T条件との対応関係が不正確となり得る. U–Pb年代測定法は局所分析法が適用可能であるが,柘榴石に含まれるウラン濃度が数ppm程度と低いため,測定の際に十分な空間分解能を達成できない恐れがある.
 本研究では高速多点フェムト秒レーザーアブレーション多重検出器型ICP質量分析法(msfsLA-MC-ICP-MS)を用いることで,局所分析精度の向上を図り,柘榴石の内部組織(コア部とリム部)を区別したU–Pb年代測定を行った.本研究で対象とした試料は三波川変成帯の五良津東部岩体に産するエクロジャイト相結晶質石灰岩である.結晶質石灰岩中の石英に富む領域に灰礬柘榴石が見られ,柘榴石試料に対して形成時の温度圧力(P-T)条件推定とU–Pb年代測定を行った.灰礬柘榴石はパッチ上の累帯構造を示し,共生鉱物からそのコア部はエクロジャイト相変成作用のP-T条件下,リム部は周囲の岩体との接合時のP-T条件下で形成されたと考えられる (Yoshida, Niki et al., 2021, JMPS).U–Pb年代測定結果に関しては,コア部からは95.8±8.9 Ma,リム部からは95.3±8.3 Ma (誤差範囲は95%信頼区間)という年代値が得られた.この柘榴石は組織ごとの形成条件の差異を示すのに対して,コア部とリム部のU–Pb年代測定結果は極めて類似していた.この組成累帯構造とU–Pb同位体比のデカップリングはリム形成時の溶解・再結晶過程にの原因があると考えられ,コア部のU–Pb同位体比がリム部にも引き継がれていると考えられる.したがって得られた年代値はコア形成年代だと考えられ,コア形成年代(95.8±8.9 Ma)とエクロジャイト相変成作用のP-T条件を対応付けることができた.本研究で扱った結晶質石灰岩のマトリクス部に産するチタン石からは年代値は200~180 Ma,および130Maという年代値が得られている.その年代値と本研究結果を組み合わせることにより,本研究試料は先三波川変成作用,三波川変成作用の開始,三波川変成作用の最高圧力に到達した時期(エクロジャイト相変成作用)という一連の沈み込み過程を記録していたことが明らかになった.