2018年1月19日

Date: 16.00am-18.00am, Friday, 19 January 2018
Place: 3F, Lecture room, Main Chemistry Build.
Speaker: Hideyuki Obayashi

日 時:2018年1月19日(金)16:00~18:00
場 所: 化学本館3階講義室
講演者:大林秀行

タイトル: 多点レーザーアブレーション法による高感度・高速元素分析法の開発

要旨:
高周波誘導結合プラズマイオン源質量分析法(ICPMS法)は、大気圧高温プラズマをイオン源として用いた質量分析計であり、高感度かつ迅速な元素分析・同位体分析法として広く用いられている。最近では、レーザーアブレーション(Laser Ablation : LA)法を組み合わせることで、固体試料の迅速な多元素同時分析や、局所元素・同位体分析に応用されている。固体試料の化学分析では、マトリックス効果に起因する系統誤差を低減するために未知試料と同じ主成分(マトリックス)組成の標準物質(濃度校正用の試料)が用いられる。しかし地球化学試料が急速に多様化し、マトリックス組成が類似した標準物質が入手できない場合も顕在化している。さらに最近では不均質試料(分析元素が偏在する試料)から平均的な化学組成を引き出す分析要請も高まっている。そこで本研究では、ガルバノ光学系による多点アブレーション(多点サンプリング)方式を応用することで標準物質の選択自由度の拡大と、広領域に対する定量分析性能の改善を試みた。
ガルバノ光学系は2つのガルバノモーター(高速・高精度に制御可能なモーター)に反射鏡を取り付け、その角度を高速で切り替えることでレーザー照射位置を変えるものである。Fernándezらは、ガルバノ光学系による多点分析を応用して同位体希釈法による元素定量分析を行い(Fernández et al., 2008)、またYokoyamaらは、多点アブレーション法による標準添加法により地球化学試料から希土類元素の定量を行っている(Yokoyama et al., 2011)。
多点レーザーアブレーションを行い、また複数の分析領域から、任意の時間比率で複数の試料あるいは分析領域から生成した試料エアロゾルをセル内で混合することが可能である。本研究では、まず定量分析を目的とした多点レーザーアブレーションが可能な制御ソフトウェアの開発を行った。これにより、以下に述べる2種の定量法、すなわち、平均的な化学組成情報を取得する全体平均組成分析、およびマトリックス組成の異なる標準物質を用いた標準添加法による元素分析が可能となった。
広領域レーザーアブレーションは、分析対象元素が偏在する場合や、微小粒子が集合した固体試料から平均的な化学組成情報を取得する場合に有用である。分析元素の偏在は、特に高分子試料(ポリマー試料)に含まれる有害元素(Cr, Cd, Hg, Pb等)を分析する際に特に問題となっており、従来のスポット方式では正確な濃度情報を引き出すことは困難であった。これに対し本研究では、これまでにアブレーションできなかった広領域(1 mm四方)をアブレーションし、検量線法を用いて有害元素の分析を行った。単一スポットでの分析に比べて、いずれの元素についてもより高精度な定量値が得られた。
続いて標準添加法による有害金属元素の分析を行った。本実験では、無鉛ハンダを対象試料とし、含有するPbをガラスの標準物質を用いて分析した。ハンダとガラスではレーザー1ショットあたりの掘削量が大きく異なり、これが系統誤差の主因となっている。ここではCuを内標準とすることで掘削量の補正を行った。Yokoyamaらが、アブレーションスポットの数でアブレーション量を制御していたのに対し、本研究で開発したソフトでは面積を制御することが可能となり、標準添加法の適用がより簡便かつ正確に行える。
ガルバノ光学系を用いたLA法では円や正方形以外にも複雑な形状の領域を分析することが可能であり、将来的には複雑な組織を持った地球化学試料への応用が期待される。