2018年1月26日

Date: 16.00am-18.00am, Friday, 26 January 2018
Place: 3F, Lecture room, Main Chemistry Build.
Speaker: Takato Ono, Ko Fukuyama, Syo Sasaki

日 時:2018年1月26日(金)16:00~18:00
場 所: 化学本館3階講義室
講演者:大野鷹士、福山鴻、佐々木捷

今週は上記3名の修論発表練習です。

講演者(Speaker) : 大野鷹士(Takato Ono)
タイトル: 火山噴煙測定に基づく火山性二酸化炭素の炭素・酸素同位体組成の推定: 火山性二酸化炭素の酸素同位体組成による火山ガス放出過程の解釈
Title: Estimating carbon and oxygen isotopic compositions of volcanic carbon dioxide based on volcanic plume measurements: Implications of the oxygen isotopic compositions for outgassing process

要旨:
火山ガスは火山における山頂火口や噴気地帯から放出されるガス相であり、火山活動を理解するためにその化学・同位体組成、放出率および出口温度がこれまで多くの研究で着目されている。その主成分は水蒸気 (H2O)や二酸化炭素 (CO2)、二酸化硫黄、硫化水素などであるが、特にCO2はケイ酸塩メルト中で低溶解度を示し、化学的に不活性であることから脱ガスプロセスの最も有効な化学的トレーサーとなり得る。火山ガスに含まれるCO2の炭素同位体組成はそれがマグマ由来か生物由来かといった起源の推定などに幅広く用いられてきた。一方で、CO2の酸素同位体組成に関する研究は数少ない。
これまでの研究では、火山ガス中のCO2同位体組成を得るために研究者が直接、噴気孔から放出されるガスを採取していたため、活動活発期・噴火期にある火山や火口底など地形的に接近の難しい噴気孔を有する火山におけるデータはほとんどなかった。近年、噴気孔から離れた場所で火山ガスと周辺の大気が混合することで形成された火山噴煙を採取することで、火山性CO2の炭素同位体組成を推定する方法が行われ始めてきた。しかしながら、噴煙測定による酸素同位体組成の推定に関しても直接採取法と同様に報告例がほとんど知られていない。
そこで本研究では、樽前山、阿蘇山および霧島硫黄山の3つの活火山を研究対象とし、同位体比赤外分光装置を用いた噴煙ガス測定に基づいて、火山性CO2の酸素同位体の推定可能性について検討を行った。その結果、樽前山と霧島硫黄山では純粋な火山ガスと周辺大気の2成分混合を仮定することで火山ガス由来の酸素同位体組成を推定することができた。一方、ガス放出源として高温噴気ガスと火口湖由来のガスが知られている阿蘇山では2種類のガスが混合した噴煙を採取したことにより、推定することができなかった。
求めた火山性CO2の酸素同位体組成の応用方法として、噴煙採取により推定された火山性CO2の酸素同位体組成を同様の方法で推定した火山性H2の水素同位体組成と組み合わせることで、火山性H2Oの水素・酸素同位体組成および平衡温度を同時に推定する手法を提案した。この手法では島弧火山において火山性H2Oの同位体組成が地域天水と島弧マグマ水との混合線上に分布し、火山ガス中のH2-H2O間の水素同位体交換反応およびH2O-CO2間の酸素同位体交換反応における各平衡温度が一致していることを仮定した。樽前山では本手法による推定値が火山ガス凝縮水の分析値と一致し、本手法の有効性を確認した。また、2013年11月の阿蘇山のデータからは島弧マグマ水範囲内に位置する推定値が示され、火口内の噴気孔に接近することの難しい阿蘇山において火山ガス中の水が島弧マグマ起源の値を持つことが確認された最初の報告である。その一方、2017年の阿蘇山と霧島硫黄山では島弧マグマ水範囲を大きく超える同位体比が推定された。この要因は火山ガスの比較的浅所における液相の水との相互作用によるものであると考えられる。以上の結果から、新手法は400 ℃以上を有する高温火山ガスに対して間接的な火山性H2Oの同位体組成の推定が可能である。また、この新手法により、火山性H2Oの島弧マグマ水範囲を大幅に超える異常な同位体比が推定された場合には、火山ガスが火山浅所での液体の水(例えば地下熱水系や火口湖)と相互作用したことを示唆する。
本研究は噴煙採取に基づいて推定された火山性CO2の酸素同位体組成の応用例を示し、噴煙試料中のCO2の酸素同位体比およびH2の水素同位体比を用いた新手法は高温火山ガスに対する水同位体組成の間接的推定や急冷を引き起こす火山ガスの液相の水との相互作用の検出に有効であると考えられる。本手法で得られた情報は火山における比較的浅所での火山ガス放出過程の理解に有益である。

講演者(Speaker) : 福山 鴻 (Ko Fukuyama)
タイトル:高温高圧実験による下部マントル主要鉱物への窒素の取り込みの研究 ~地球深部における窒素の貯蔵・輸送~
Title: Incorporation of nitrogen into the lower-mantle minerals from high pressure and high temperature experiments -Transportation and storage of nitrogen in the deep earth-

要旨:
窒素は地球大気の約8割を占め、生命の必須元素である. さらに初期地球における天候を窒素が左右していたという報告もある (e.g. Goldblatt et al., 2009; Wordsworth and Pierrehumbert, 2013)。このように、初期地球進化過程や地球の生命起源を議論するうえで、窒素は極めて重要な揮発性元素である。しかし依然として、地球内部における窒素の挙動については詳細には理解できていない。例えば、コンドライトモデルから推定される地球内部の窒素量 (McDonough, 1995)に対して、天然試料の分析から見積もられる地球内部の窒素量は、他の揮発性元素の1/10未満であることが知られている (Marty, 2012)。これは“Missing” nitrogen と呼ばれ、地球科学的に取り組むべき重要な課題となっている。この原因として、マグマオーシャンを経ることにより、上部マントルに窒素が貯蔵されている可能性 (e.g. Li et al., 2013)が示唆されてきた。しかし、地球内部における窒素の貯蔵を議論する場合、地球で最も容量が大きい下部マントルでの窒素の貯蔵に関する先行研究は十分でなく、現時点ではYoshioka et al. (2016, Goldschmidt Conf.)のみとなっている。そこで本研究では、下部マントルの主要鉱物であるbridgmanite, periclaseそして stishoviteに窒素がどれほど取り込まれるか高温高圧実験による検討を行った。実験には愛媛大学GRCのマルチアンビル高圧発生装置を使用し、実験の温度圧力条件は27 GPa、1600 ̊C-1700 ̊Cであった。また本実験では、下部マントルの酸化還元条件を再現するためにFe-FeO bufferを使用した。出発試料には、SiO2 (quartz) と MgOの混合粉末と SiO2、 MgO 、Al2O3 そして Mg(OH)2の混合粉末の2つを用意した。急冷回収試料中の窒素の分析には大気海洋研究所のNanoSIMSを使用した。
 下部マントル条件から急冷回収した試料において、固相にはbridgmanite, stishovite, およびpericlase、液相にはMgOに富んだメルトが生成物として共存していた。一連の実験結果から、bridgmaniteよりも、stishovite, periclaseが相対的に多くの窒素を取り込みうることが分かった。このことから、下部マントルの主要鉱物であるpericlaseが窒素の貯蔵庫となっている可能性がある。また本研究から、沈み込むスラブにより、下部マントルまで運ばれるSiO2に富んだ海洋地殻の堆積岩層が高圧相転移してできるstishoviteにも、多くの窒素が取り込まれることが示唆された。このことから、プレートテクトニクスが始まった約40億年前から、沈み込み帯において窒素が下部マントルへ供給され続け、下部マントルに窒素の貯蔵庫を形成する可能性がある。

講演者(Speaker) : 佐々木 捷 (Syo Sasaki)

タイトル:ファイバーレーザーを用いた加熱・測温システムの構築

要旨:
高温高圧実験は、物質科学において重要な技術である。例えば、地球内部に匹敵する高温高圧条件の再現によって、新たな鉱物や相関係が得られ、多くの分野においての発展に貢献できる。高圧実験装置として多用されるダイヤモンドアンビルセルは、光学的に透明なダイヤモンドをアンビルとして用いているため、アンビルを通じて試料をレーザー加熱が可能である。またその輻射光を分光することで、試料の温度測定が可能である。レーザー加熱では、そのレーザーの波長域に照射対象試料の吸収があることが必要であり、通常はYAGレーザーやCO2レーザーが用いられる。また一般的には片面からの照射により加熱を行うが、このとき試料内に生じる不均一な温度分布が問題視される。本研究では、波長域1070±10 nmのファイバーレーザー(最大出力200 W)を両面から照射し、輻射光を分光することで、レーザー加熱式ダイヤモンドアンビルセルとして用いるのに相当な精度の加熱・測温並びにその他必要とされる加工の実現を目指した。