2020年10月2日

Date: 16:00 – 18:00, Friday, October 2, 2020

日時: 2020年10月2日(金)16:00 – 18:00

講演者:甘利 幸子

Speaker: Sachiko Amari

タイトル:プレソーラーSiC粒子から得られる情報とは

Title: What can we learn from presolar SiC grains?

プレソーラー粒子とは主に始源的な隕石に含まれる星の外縁部で生成された粒子のことである。始源的な隕石は太陽系が誕生した46億年前に生成されたので、その中に含まれるプレソーラー粒子は太陽系生成以前に生成された粒子であり、生成された星の情報を持っている。プレソーラー粒子には鉱物学的に色々な種類があるが、その中で炭化ケイ素(SiC)は種々の理由から一番研究が進んでいる粒子である。
本セミナーではSiCの研究から現在どのようなことがわかっているかレビューを行う。SiCの構成元素の一つであるケイ素や粒子中に含まれる重元素の同位体比からどのような情報が読み取れるか、また将来の研究への展望などを述べる。


講演者:  深井 稜汰

Speaker: Ryota Fukai

タイトル: 太古代岩石の142Nd異常に対する質量依存Nd同位体分別による影響

Title: Assessment of the effects by mass-dependent fractionation for 142Nd compositions in Archean rocks


146Sm–142Nd放射壊変系列(半減期:10.3億年)は、初期地球におけるケイ酸塩分化過程を解明する上で鍵となる情報である。約35億年前までに産出した太古代岩石には、現在の地球岩石と比較して20 ppm程度の142Nd/144Nd比の正異常・負異常が見られる。この変動は146Smが存在した初期地球において、ケイ酸塩分化に伴うSm–Nd分別が起きたと解釈されている。一方で、この同位体異常はNdを化学分離する際に生じる非質量依存の同位体分別(核体積効果)や、質量分析計内での二次的な質量依存分別、さらには天然での質量依存分別の寄与の可能性も排除できない。実際に、現代の岩石から調製された複数のNd標準試料には、上記の影響が確認されている。本研究では、太古代岩石における質量依存・または非質量依存同位体分別の影響を検証するため、オーストラリアのPilbara craton, North Pole Dome地域からサンプリングした2種類のアダメロ岩、6種類の玄武岩試料のNd同位体比を、表面電離型質量分析計によって測定した。また、同一試料から誘導結合プラズマ質量分析計(iCAP TQ)を用いて微量元素存在度を測定した。先行研究では同地域の岩石には142Nd/144Nd比の異常は見つかっていなかったが、本研究では3種類の岩石から142Nd/144Nd比の5–8 ppm程度のマイナスの偏差が見られた。加えて、それらの試料には安定同位体比である148Nd/144Nd比・150Nd/144Nd比にも、Exponential lawの補正を行った上で標準試料からの正異常が見られた。過去の研究例とNd同位体比のパターンを比較したところ、核合成起源の同位体異常や、化学分離の際に生じる核体積効果のパターンとは一致しなかった。一方で、質量分析計の補正式とは異なる分別曲線を示す分別(equilibrium law)による見かけ上のずれと、Nd同位体比パターンが一致した。安定同位体比を用いて分別の効果を補正したところ、標準試料の142Nd/144Nd比と一致した。この結果は、太古代岩石が天然で平衡論的同位体分別効果を受けており、更にその結果が分析上142Nd/144Nd比の測定に影響を与えていることを意味する。同位体分別の影響は今までの太古代岩石の142Nd研究において考慮されておらず、データの見直しが必要である。