2020年10月23日

Date: 16:00 – 18:00, Friday, October 23, 2020

日時: 2020年10月23日(金)16:00 – 18:00

講演者:福山 鴻

Speaker: Ko Fukuyama

タイトル:下部マントル鉱物への窒素溶解度: 地球深部における窒素貯蔵庫形成過程の考察

Title: Nitrogen solubilities in the lower-mantle minerals: implication for formation process of nitrogen reservoir in the deep Earth. 

窒素は地球大気の主成分であり、生命の必須元素であることから、地球化学的に重要な揮発性元素である。しかし依然として、地球内部における窒素の挙動については不明な点が多い。例えば、コンドライト組成によって規格化された現在の地球の窒素存在量は、他の揮発性元素の1/10未満と相対的に枯渇している (Marty et al., 2012)。この窒素が枯渇する原因の一つとして、マグマオーシャンを経て地球深部に窒素が貯蔵されている可能性が示唆されてきたが (Li et al., 2013; Yoshioka et al., 2018)、下部マントル主要鉱物への窒素溶解度に関する実験報告は少ない。


 本研究では、下部マントル主要鉱物であるbridgmanite (MgSiO3)とpericlase (MgO)および沈み込むスラブ中の石英が高圧相転移して生じるとされるstishovite (SiO2)への窒素溶解度を明らかにするため、28 GPa、1400 °C-1700 °Cの条件での高温高圧実験を行った。実験には愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センターのマルチアンビル高圧発生装置を使用しており、試料の周りにFe-FeO bufferを配置することによって下部マントル相当の酸化還元状態に制御し、急冷回収した。bridgmanite中の窒素の分析にはCRPG-CNRSの高分解能SIMS (HR-1280)を使用し、periclaseとstishovite中の窒素の分析には東京大学大気海洋研究所のNanoSIMSを使用した。NanoSIMSによる分析のための標準試料は、物質・材料研究機構にてMgO単結晶基板と石英単結晶基板に14N+を打ち込むことによって作成した。


 bridgmaniteへの窒素溶解度は、温度が上昇するにつれて増えることが分かった。マグマオーシャンの固化過程において、bridgmaniteは最初に晶出するため (Ozawa et al., 2018)、下部マントルで窒素を貯蔵する役割を果たすと考えられる。一方、periclaseにはほとんど窒素が取り込まれないことが分かった。periclaseはマグマオーシャンの固化過程において窒素を取り込んだbridgmaniteの次に晶出し (Ozawa et al., 2018)、bridgmaniteを取り囲む可能性が考えられていることから (e.g. Ballmer et al., 2017)、下部マントルに窒素を閉じ込める役割を果たすかもしれない。ただし、今後はpericlase中の窒素の拡散を考えていく必要がある。stishoviteへの窒素溶解度は、温度が上昇するにつれて高くなり、最大で約400 ppmに及ぶことが分かった。この値はolivine, wadsleyite, ringwoodite, bridgmaniteなどのマントル主要鉱物と比べてはるかに高く、沈み込むスラブを介することによって多くの窒素が下部マントルへ供給されると考えられる。


 以上のように、本研究成果は地球深部と地球大気が共進化してきたことを実験的に示唆するものである。