2020年12月18日

Date: 16:00 – 18:00, Friday, December 18, 2020

日時: 2020年12月18日(金)16:00 – 18:00

講演者: 田中 栄成
Speaker: Eisei Tanaka
タイトル:  ICP 質量分析計による高感度・迅速ウイルス検出法の開発  

ウイルスは自身の細胞を持たず DNA や RNA などの核酸とそれを包むタンパク質の膜(ウイルスエンべロープ)で構成されている。ウイルスは動植物の細胞内に入り込み、そこで自身の DNA を複製することで増殖することが一般に知られている。一部のウイルスはヒトの健康に悪影響を及ぼすことが報告されており、よく知られているウイルスとしてはインフルエンザウイルスや HIV ウイルスなどが挙げられる。また、昨今では新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が注目される中、感染症の原因たるウイルスの高感度で迅速な検出が求められている。
一般的なウイルスの検出として、PCR 法(Polymerase Chain Reaction) (Song et al., 2012)や抗原抗体反応を利用した検出方法(Le et al., 2014)が利用されている。しかし、PCR 法では検出所要時間が2-5時間と長く、抗原抗体反応では感度や精度が低いことなどが課題となっている。そこで、本研究では元素の高感度・迅速分析が可能なICP質量分析法(ICP-MS 法)に着目し、ICP-MS 法を応用したウイルスの検出法の開発を目指した。ウイルス検出の方法として、分析対象ウイルスの DNA(もしくは RNA )やウイルスエンベロープ上のスパイクタンパク質にナノ粒子を標識し、ナノ粒子に関して ICP-MS 法で分析を行うことで、間接的にウイルスの検出を行う。金ナノ粒子(Au NPs)の表面にチオール化した DNA プローブを結合させられることは既に報告があり(Zhang et al., 2012)、対象のウイルスが持つ DNA と相補的な塩基配列を持つプローブなの粒子を作成することでウイルスをナノ粒子で標識(ハイブリダイズ)することができる。また、ICP-MS 法では個々のナノ粒子の検出が可能であるため、ウイルスを一個から検出できると期待できる。
ウイルス検出に向けた予察的な実験として、ICP-MS 法による硝化細菌のRNAの検出を目指した。Au NPs と結合した DNA プローブを RNA にハイブリダイズさせ、ICP-MS で測定を行った。またハイブリダイズしたプローブと身反応のプローブを区別するための手段を考案し、検証を行った。本発表ではその結果と今後の展望を報告する。

講演者: 矢部 佑奈
Speaker:  Yuna Yabe
タイトル:X線構造解析による低温高圧下におけるエタノールの未知相の発見
Title: The discovery of new crystalline phases under high pressure and low temperature by X-ray structure analysis

回転異性体を持つ最も単純なアルコールであるエタノールは、分子間で水素結合を形成しており、エタノールの相図は水素結合分子系を理解する上で重要である。これまで熱力学的に安定な2つの相が報告されており、一つは常圧で融点以下の低温相(Jönsson, 1976)、もう一つは室温で2〜17GPaの高圧相である(Allan and Clark, 1999)。また、先行研究において(小泉, 修士論文, 2014)、温度・圧力制御下における単結晶X線構造解析によりエタノールの固液共存条件が明らかにされ、さらに、低温相と高圧相以外に、圧力範囲0.6〜1.4GPa、温度範囲200〜240Kにおいて未知相が発見された。しかし、この未知相の詳細な構造を明らかにするのに十分な実験データは得られていなかった。
本研究は、この未知相の単結晶X線回折実験において良質なデータを得ることで、未知相の構造を決定することを目標としている。未知相は、低温相の単位格子と、この単位格子を反転操作したものがb軸方向に交互に積み重なることで、b軸方向の周期が低温相の2倍となった構造を取っていると予想される。実験で得られた単結晶の構造解析を行ったところ、上記の未知相よりもさらにb軸方向に長周期の新たな未知相が存在することが分かった。本発表では、得られた単結晶の回折データより精密化を行い明らかになった新たな未知相の構造を紹介するとともに、存在が示唆されるさらに別の未知相の構造モデルについても説明する。

講演者: 秋本 篤弥
Speaker:  Atsuya Akimoto
タイトル: エナンチオマー過剰率50%のアラニンの室温における圧力誘起オリゴマー化反応  
Title: Pressure-induced oligomerization of alanine with 50 % enantiomer excess at room temperature  

アミノ酸のオリゴマー化は、生命の起源にせまる化学進化の過程である。Fujimoto et al. (2015) では、室温高圧条件下でのL-アラニンのオリゴマー化が報告されている。それだけでなく、隕石中から検出されるような、D, L体が共存したアミノ酸での検討は、前生物学的な分子進化を検討する上で重要な課題と言える。本研究では、D, L体が共存する環境、特にエナンチオマー過剰な環境での圧力誘起オリゴマー化反応について検討する。高圧実験に使用したアラニン粉末はL体過剰な組成で蒸発乾固したもので、X線回折の線幅の広がりから結晶性が低いことを確認している。そのため、出発試料の結晶性の低さがオリゴマーの収率にどのような影響を与えるかについても検討したい。
今回の発表では、対向アンビルを用いた高圧実験から回収した試料の分析結果と、DAC(ダイヤモンドアンビルセル)を用いて行った高圧実験のXRDの結果を紹介する。