2021年1月15日

Date: 16:00 – 18:00, Friday, January 15, 2021

日時: 2021年1月15日(金)16:00 – 18:00

講演者: 煙山 優太

Speaker: Yuta Kemuyama

タイトル:高速多点レーザーアブレーション法を組み合わせた多重検出器型ICP質量分析法による局所Ca同位体分析及びCa同位体イメージング分析法の開発


 元素の安定同位体比の変動を正確に測定する上で、質量分析計が広く用いられている。特に重元素では相対質量差が小さいため、同位体組成変化が小さく、その分析には高精度な同位体分析手法が必要となる。最近、安定同位体分析法として、多重検出器型ICP質量分析計(Multiple Collector-ICP-Mass Spectrometer : MC-ICP-MS)が注目されている。MC-ICP-MSに用いられているイオン源(ICP)は、8,000 K以上の高温で分析元素を強力にイオン化できるため、これまで分析が困難であった元素に対しても精密同位体分析が可能となった。また、ICPは大気圧で動作するため、様々な試料導入法が適用でき、溶液(液体)試料、固体試料、気体試料に含まれる微量元素の同位体分析が可能となっている。中でも、レーザーアブレーション試料導入法は、固体試料の局所部分を分析できるという特徴を有するため、周辺鉱物等からの混入を避け、目的成分のみの同位体分析を行ううえで重要な試料導入法となっている。
 レーザーアブレーション法(LA法)では、高エネルギーレーザーを試料表面に照射し、固体試料の一部を気化あるいはエアロゾル化する。レーザービームを10 µm程度にまで絞り込むことで特定の鉱物のみの分析ができる上、レーザービームを二次元的に走査することで、元素あるいは同位体イメージング情報を得ることが可能である。一方で従来のレーザーアブレーション法では、生成されるエアロゾルサイズが大きく、安定した信号が得られず、同位体分析精度も劣っているという問題があった。我々は、高速多点レーザーアブレーション装置を用いることでエアロゾルサイズ分布を改善し信号安定性を向上させ、より高精度での局所同位体分析法の開発を続けている。
 カルシウム(Ca)は自然鉱物や生体鉱物などに普遍的に含まれる元素であり、その同位体組成を調べることで鉱物の起源や生成過程に関する知見を引き出すことが可能である(Matthew et al., 2014)。また、骨、歯を構成するヒドロキシアパタイト中のCa同位体は、生体内でのCa代謝効率の変化やある種の疾病(腎不全あるいは糖尿病、骨粗鬆症など)に対するマーカーとしての活用が期待されている (Alexander et al.,2011)。これまでLA法を用いたカルシウムの局所同位体がいくつか報告されているが、溶液試料導入法と比較して同位体分析精度が劣っており、局所同位体分析の有用性を十分に発揮できていない(例えばTacail et al., 2016)。そこで本研究では、高速多点レーザーアブレーションを組み合わせたMC -ICP-MS法(msLA-MC-ICP-MS法)によるCa高精度同位体比分析法の開発を目指した。同位体分析精度及び正確度の改善には信号の安定性が極めて重要であるため、本研究ではレーザーアブレーション法により生成したエアロゾルから、粒径サイズの大きな粒子を排除するスタビライザーを用い、様々な条件で信号の安定性と得られる同位体分析精度を比較した。さらにより局所領域のCa同位体分析を行うためには、観測される信号強度は過渡的なものとなってしまうため、今後は、山本らが開発した信号積分法の採用も試みる予定である。

講演者: 森 悠一郎

Speaker: Yuichiro Mori

Title: Preliminary results of hydrogenation experiments of Fe-Si binary system under HPHT conditions.

タイトル: 高温高圧下Fe-Si二成分系合金における水素化その場観察実験とその予備的結果 

 
外核における密度欠損はBirchの時代より既に指摘されており、地球核の軽元素問題は地球科学における第一級の課題として長い間議論されてきた。これまで軽元素の特定には、実験・計算・分析など多方面からのアプローチがなされ絞り込まれてきているが、さらなる軽元素の制約のため鉄と軽元素の合金の物性を知ることが不可欠である。
そこで、我々は軽元素の有力な候補としてSiとHに着目して鉄の水素化において他の軽元素(Si)が与える影響を理解したいと考えている。先行研究より外核は液体状態にあるが、CMB相当圧力での最下部マントルの融点は純鉄のそれよりも大幅に低く、宇宙存在度が多く高圧下ではFeに溶存するHは融点を大幅に下げることや軽元素の有力な候補とされている。J-PARCに設置の6軸圧縮プレス”圧姫”を用いた高圧その場中性子回折実験からFe-H二成分系での水素溶存サイトや溶存量の決定がされてきた。一方、Siは宇宙化学的・地球化学的にコアに一定量のSiが溶け込んでいるのではないかと考えられてきたため、Fe-Si二成分系や多成分系での研究も多く議論されてきた。Fe-Si-H3成分系での実験はまだ少なく、Fe-Si-H三成分系でのSiが鉄水素化に与える影響はまだわかっていない。本発表では昨年度末にKEK PF-AR NE7に設置のMAX-IIIにKMAを組み込み行った高温高圧その場X線回折実験の予備的な結果及び今後の実験目標などについて報告する。