2021年1月22日

Date: 16:00 – 18:00, Friday, January 22, 2021

日時: 2021年1月22日(金)16:00 – 18:00

講演者: 沼 倫加

Speaker: Norika Numa

タイトル:多重検出器型ICP質量分析計を用いた白金ナノ粒子の同位体比測定

Title: Isotopic ratio analysis of single platinum nanoparticles using multiple collector ICP-MS

 重元素(鉄よりも重い元素)は、主にs-processとr-processにより合成される。s-processはAGB星などの赤色巨星における準静的な中性子捕獲反応に基づくため、生成される核種の量や同位体組成が推定しやすい(Burbidge et al., 1957)。一方でr-processは、過渡的現象を含む複雑な反応であるため生成される核種の種類や量の把握が難しいうえ、反応に大量の中性子を必要とするためその合成環境も特定されていない。そこでr-processの反応場を理解するためには、個別のr-process核種の特徴を把握することが必要である。プレソーラーグレインに着目した。そのため、r-processの情報を保持する物質の高精度な同位体比測定が求められる。
 太陽系形成以前に形成された物質としてプレソーラーグレインが注目されている。プレソーラーグレインは、nm-µmオーダーの大きさを持つ粒子であり(Lewis and Anderson, 1983)、軽元素の同位体組成分析を通じてプレソーラーグレインが特定されている(e.g. Davis, 2013)。しかし、軽元素からは重元素の合成環境を制約することが難しいため、r-process元素の合成環境を制約するためには、プレソーラーグレイン中の重元素を調べる必要がある。本研究では、r-process richな核種であるPtに着目し、その中でもr-processのみで生成されたと考えられる198Ptを用いた同位体比測定を行い、プレソーラーグレインの発見と共にr-processの反応場の理解の解明を目指す。
 今回は、予察的実験として、信号の高速読み出し機能を搭載した多重検出器型ICP質量分析計を用いて、市販の白金ナノ粒子における1粒子ごとの同位体比測定を行った。ICP-MSを用いたナノ粒子の測定では、信号を取得する時間であるdwell timeをナノ粒子由来の信号幅(0.3–1 ms)より短くする必要がある。ナノ粒子分析で得られる信号は過渡的であるため、dwell timeが短くなると信号強度(cps)が大きくなる。そのため、不感時間によるイオンの数え落としが発生し、真に得られる信号強度よりも低い信号強度として検出されてしまう。数え落としの影響があると粒子由来のイオンを全て計測できていないため、正確な同位体比測定が困難である。そこで数え落としの影響を補正するために、不感時間補正を行った(Obayashi et al., 2017)。白金ナノ粒子中の194Pt、196Pt、198Ptの測定で得られたデータに対して不感時間補正法を適用後、三白金同位体比プロットを作成し、本分析手法による同位体比の分析確度を検証した。

講演者: 伊藤 颯

Speaker: Hayate Ito

Title: Characterization of amorphous ice and ice polymorphs using persistent homology

氷のアモルファス固体は低密度アモルファス氷(LDA)と高密度アモルファス氷(HDA)が存在していて、これらは圧力によって一次相転移的な変化をすることが知られている。もしこの二つのアモルファス氷が別の相であるとすると、水の高温での二つの液相(HDLとLDL)の存在と、その二つの液相に対する液液臨界点の存在が予想される(第二臨界点仮説)。この仮説が正しいならば水の様々な異常を説明することができる。一方で第二臨界点は実験的に直接観測されておらず、またHDA-LDA間の構造に対する知見は乏しいため、なぜ水は低温で分離傾向にあるのかについてはよくわかっていない。HDAやLDAを構造的に理解することは水の性質のさらなる理解の上で重要である。
 パーシステントホモロジーは近年注目を集めつつあるトポロジカルデータ解析と呼ばれる手法群のなかの一つで、点集合データからトポロジー的な特徴を抽出することができる手法である。これは様々な距離スケールの秩序構造を取り出すことができるため、中距離的な秩序構造が重要と考えられるアモルファスに対して強力なツールになると考えられている。
 本研究ではアモルファス氷、および氷の様々な多型に関してパーシステントホモロジーを計算することによってそれぞれの構造を特徴付けし、アモルファス氷の性質のさらなる理解を目指す。