2021年4月30日

Date: 16:00 – 18:00, Friday, April, 30, 2021

日時: 2021年4月30日(金)16:00 – 18:00

講演者:小松 一生

Speaker: Kazuki Komatsu

タイトル:メガバール中性子回折実験の夜明け

Title:The dawn of Mbar neutron diffraction

ここ数年、氷VII-X相転移の観察を目指して、ナノ多結晶ダイヤモンドをアンビル材に用いた超高圧中性子回折実験用の圧力セルを開発している。昨年のセミナーでは82 GPaまでの氷VIIあるいは氷Xの中性子回折パターンを報告したが、今年に入ってから(2020年3月)100 GPaを超える同試料の中性子回折実験にはじめて成功した。我々のグループ以外にも100 GPaに迫る圧力下での中性子回折実験は試みられているが、精密な構造解析に耐えうるs/nを持つパターンは現時点では報告されていない。今回の実験で得られた中性子回折強度も十分に強いとは言えないが、これまでにない精度で、氷Xの構造に迫ることができると考えている。本発表では、得られた中性子回折データの予察的な構造解析の結果を報告したい。

講演者:飯塚 理子

Speaker:Riko Iizuka-Oku

タイトル:高温高圧下での鉄-含水ケイ酸塩系における水素化への軽元素の影響

Title:Effect of light elements on hydrogenation of iron in iron-hydrous silicate system under high pressure and high temperature

現在の地球中心コアの主成分である鉄には、純鉄からの密度欠損を説明しうるために軽元素(S, Si, O, C, H など)が溶け込んでいると考えられている。候補の1つである水素は、水を介した酸化還元反応を経て鉄水素化物として鉄に取り込まれる。しかし、高圧下でしか水素は有意に鉄に溶け込まず常圧下で抜け出てしまう上に、従来のX線を用いた測定手法では軽い水素を直接検出できないという実験上の制約があった。このため、これまで難しいとされていた鉄に固溶した水素量の定量が、高温高圧下での中性子回折その場観察によって可能になってきた。さらにFe-FeS系での融点はさらに下がることが知られており、地球の形成初期段階において、水素と同様に硫黄も鉄に優先的に取り込まれたことが予想される。本研究では、鉄の密度・融点を大きく下げる水素と硫黄の2つの軽元素に着目し、原始地球の組成に見立てた試料系での高温高圧実験を行い、鉄の水素化反応に対して硫黄が及ぼす影響について明らかにすることを試みた。

初期試料はFe(+S 5-10wt%)の粉末、モル比1:1のSiO2とMg(OD)2の混合粉末をそれぞれ調整し、サンプルカプセル内でFeのペレットが中心に位置するように充填した。水の有無を比較するために、水素源として加えたMg(OD)2の代わりにMgOを用いた無水の系での実験も行った。高温高圧実験は、J-PARC, MLFの高圧ビームラインPLANETに設置された大型6軸プレス圧姫を用いて行った。6-7 GPa, 850-1000 Kと10-12 GPa, 750-1200 Kの圧力温度範囲で、重水素化させたFeの高温高圧相(hcp相とfcc相)の中性子回折パターンを取得し、水素量を決定した。実験後に回収した試料の微小部X線回折測定とSEM-EDS分析を行い、反応生成物と元素の分布を調べた。さらにケイ酸塩部分のFT-IR測定から、水の行方を探った。発表では、Feに取り込まれた水素量の温度圧力依存性および硫黄の有無の影響について結果を紹介し、地球形成初期における鉄の軽元素の取り込み過程について考察する。