2021年5月7日

Date: 16:00 – 18:00, Friday, May, 7, 2021

日時: 2021年5月7日(金)16:00 – 18:00

講演者:高萩 航

Speaker: Wataru Takahagi

Title:Metal availability in the electronegative ancient hydrothermal systems

 生命誕生前の初期海洋における鉄 (Fe)やコバルト (Co)、ニッケル (Ni)といった遷移金属元素は、二酸化炭素の固定化触媒としての機能や生命前駆的な還元的トリカルボン酸回路(reductive Tricarboxylic Acid; rTCA) サイクルを駆動するなどの機能を持つため、生命進化の観点から生命前駆物質の供給量を推定する上で初期地球での元素利用度 (Metal availability)の制約が必要である。近年、深海熱水噴出域に特異的な低電位が観測され、その原因が熱水中の水素分子などの還元性成分の酸化により電子が生み出され、熱水と海水の電位差に沿って導電性を持つ硫化物などの鉱物を通って外側に輸送されることであることが報告された。この熱水発電と呼ばれる現象は現在の深海底でも恒常的にみられるが、熱水と海水の電位差が顕著であった生命誕生前の冥王代から初期太古代にかけては、現存する熱水噴出域よりも低い電位が達成されていた可能性が高い。この電位差により、熱水噴出域で熱水中のS2-と海水中のNi2+の混合により沈殿したNiSはNi3S(Heazlewoodite)に、またCoSはCo9S8 (Cobaltpentlandite)という溶解度に電位依存性を持つ鉱物に相転移することで、熱水の活動度 (pHや温度に依存する)によって熱水噴出域の局所的なNiとCoの存在度が制約されることがわかった。本発表では、水素解離の熱力学ポテンシャル計算に基づく地球初期の熱水系における発電現象の定量化と、電位に制約を受けるNiの局所的な存在度の予測結果を紹介する。熱力学的非平衡状態にあるアルカリ高温熱水と弱酸性海水の間には恒常的に–0.6~–0.8Vの電位差が存在し、この電位域でのNi3S2の溶解度はNiSより2桁以上低く、熱水噴出域に海水バルクよりも5桁ほど高いNi/Fe比が実現されていた可能性を提案する。 

講演者:山下 恵史朗

Speaker:Keishiro Yamashita

タイトル:MgCl2水溶液アモルファスから結晶化した氷VII

Title:Ice VII crystallised from MgCl2-bearing amorphous solution

 水が大気圧摂氏0度以下で凍った氷Ihは、塩イオンを含まないことが古くから知られている。これは塩イオンによって氷の水素結合構造が歪み、不安定化するためである。一方で、塩を含む”氷”は全く存在しないわけではない。LiClなどの高濃度水溶液を液体窒素温度まで急冷すると相分離せずガラス化し、水溶液アモルファスが得られる。これは構造緩和が間に合わないうちに低温で分子運動が制限され、液体に近い構造のままトラップされた非平衡状態となったと解釈できる。この水溶液アモルファスを低温のまま加圧して4
GPa程度で加熱すると、氷の高圧相の1つである氷VIIが結晶化する。結晶化した氷VIIは構造中に取り込んだ塩イオンに影響され、単位胞体積の膨張などの変化が見られる(Klotz
et al., 2009)。
 これまで、塩にMgCl2を用いて水溶液アモルファスから結晶化した氷VIIについて調べてきた。その過程で異なる単位胞体積をもつ氷VIIの共存が見られた。この2つの氷VIIを説明づけるには、氷VIIが水溶液アモルファスの混合状態を引き継いで結晶化し、塩イオンは氷VIIの構造中に非平衡に取り込まれている、という単純な描像では不十分である。本発表ではこれまでの実験結果を俯瞰し、水溶液アモルファスから氷VIIへの結晶化に関して考察する。