2021年6月18日

Date: 16:00 – 18:00, Friday, June 18, 2021

講演者:赤宗舞

Speaker:Mai Akamune

タイトル:  アブレーション過程でのナノ粒子の破砕

Title:Fragmentation of nanoparticle during the laser ablation process.

元素はそれぞれが異なる元素合成過程を持っており、そのうち軽元素(原子番号が鉄までの元素)に関しては合成過程について明らかになってきている。また、重元素(原子番号が鉄以降の元素)の多くはs過程とr過程によって合成されたと考えられている(Burbidge et al., 1957)。それぞれの合成環境に関しては、s過程に関してはAGB星であったことが分かっているが、r過程に関しては超新星爆発や中性子星合体が候補としてあがっているものの、計算上では現在の太陽系の存在量を作り出すことはできておらず、物質的な証拠による制約が必要である。こうした元素合成環境を制約する物質的証拠の一つにプレソーラーグレインが考えられている。

プレソーラーグレインは、原始太陽系星雲で蒸発や凝縮による元素の混合・均質化を免れた粒子であり、その同位体組成から元素の形成環境を制約することができる(Zinner 1987)。また、プレソーラーグレインはそれぞれ別の起源に関する同位体情報を保持していると考えられており、それぞれの起源に関する同位体情報を取り出すためには、1粒子毎の化学組成・同位体組成情報を得ることが必要である。

隕石から粒子を抽出する方法としては、酸分解による方法が主に用いられている(Amari et al., 1994)。この方法は、マトリックスを排除した分析が可能であるが、膨大な時間が必要となり、また酸分解を行うことから表面の化学状態が変化する可能性が示唆されている(Tizard et al., 2005)。そこで、化学的処理が不必要である液中レーザーアブレーション(LAL)法を用いてプレソーラーグレインを抽出することを考えている。

こうした背景から、本研究ではLAL法を用いることで隕石中からプレソーラーグレインを抽出し、ICP-MSを用いて隕石中の重元素を測定することで重元素の元素合成過程に制約を加えることを目指す。

LAL法は他の抽出方法と比較して、耐酸性の粒子も抽出可能であるという点で優れている。一方で、LAL法を用いた粒子の合成においてはフルエンスの変化によって粒子の凝集や破砕が起きるという問題がある(Elsayed et al., 2013)。従って、LAL法を用いてプレソーラーグレインを抽出する場合にも同様の問題が起きることが考えられる。

そこで本実験では、フルエンスを変化させた際にナノ粒子の粒度分布がどのように変化するかについて検証を行った。試料としては、隕石を模擬した標準岩石試料(JB1a)に粒径既知の白金ナノ粒子懸濁液(粒径70 ± 4 nm)を添加して樹脂で固めた物を使用して分析を行った。比較のために個数濃度が10⁵ 個/mLになるよう希釈した白金ナノ粒子(粒径70 ± 4 nm)懸濁液を測定した。また、凝集の過程を検証するために、LALの条件を変えた測定やナノ粒子懸濁液へのレーザー照射を行い、粒度分布を比較した。

LALにはNd;YAGレーザー(CryLas社製FQSS266-Q4)を、測定には磁場型ICP-MS(Nu Instruments社製Nu AttoM)を用いた。本発表では、実験結果とその考察について紹介する。

講演者:磯部隆仁

Speaker:Ryuto Isobe

タイトル: レーザー加熱ダイヤモンドアンビルセルを用いた高温高圧下でのポストペロブスカイト構造CaIrO3とXeの反応性

Title:Reactivity of post-perovskite structure CaIrO3 with Xe under high pressure and high temperature using laser heated diamond anvil cell

Xe はその高い揮発性、化学的不活性、そして 9 つの同位体が存在することから地球大気の形成過程の研究に利用されている。現在の地球大気における Xe の存在度は始原的隕石であるコンドライトと比較して 90 %程度枯渇している。これはミッシングキセノンのパラドクスと呼ばれ、地球大気の形成過程を考える上で大きな課題である。この問題を解決するために、地球内部に Xe が保持されている可能性が指摘されている。Jephcoat et al. (1987)はXeが14 GPaで面心立方構造から中間的な最密充填構造をとり、75 GPa 以上で六方最密充填構造に構造相転移を起こすことを報告した。さらに Jephcoat et al. (1998)では Xe が核まで沈む可能性を指摘している。Xe は他の貴ガスと比べると最外殻電子が原子核から離れているため比較的反応性は高く、特にその高圧下での反応性については近年盛んに調べられている。例えば、Sanloup et al. (2005)では地殻や上部マントルを想定した Xe と SiO2 との反応性について調べており、Niwa et al. (2017)では高圧における窒素との化合物について調べられている。しかしながら未だに、ミッシングキセノンのパラドクスについて、合理的な説明は与えられていない。そこで本研究では、地球マントル最下部である D”層に存在するMgSiO3 ポストペロブスカイト層のアナログ物質であるCaIrO3 とXeの反応性についてレーザー加熱ダイヤモンドアンビルセル(DAC)を用いて調べることを目的としている。今回の発表では、現在まで取り組んできたCaIrO3 とXeの高温高圧実験および分析実験の結果とその考察について議論を行いたいと考えている。