2022年1月21日

Date: 16:00 – 18:00, Friday, January 21, 2022

発表者:栗原かのこ

Speaker: Kanoko Kurihara

タイトル:ICP-TOF-MSを用いた隕石中の微粒子個々の元素組成・サイズ分析

Title : Elemental and size analysis for individual fine particles in meteorites using ICP-TOF-MS

軽元素(原子番号がFeよりも小さい元素)はビッグバンや恒星内部で合成されたことが知られており、重元素(原子番号がFeよりも大きい元素)はAGB星・中性子星合体・超新星爆発などで合成されたと考えられている(Burbidge et al, 1957; 和南城, 2014)。このように様々な場所で合成された元素が集まって分子雲を形成し、そこから太陽系が形成された。合成場から太陽系までどのように元素が輸送されてきたかについては未だ解明されていないが、銀河の形成過程や太陽系に元素を供給した天体の解明(Huss et al., 2009)に繋がることから、元素の輸送過程・輸送形態を明らかにすることは重要である。観測では数µmよりも大きな粒子しか見ることができない(Jewitt et al., 2015)ため、元素がより小さな粒子の形で輸送されている場合に粒子か気体かを判別することができないという問題がある。そこで、元素の輸送過程を解明するためには物質的な証拠が必要だと考え、本研究では隕石中のプレソーラー粒子に着目した。

 プレソーラー粒子は太陽系形成以前の情報を保持している粒子(e.g. Hoppe et al., 1993)である。プレソーラー粒子には様々な組成やサイズを持ったものが存在し、粒子ごとに異なる起源をもつと考えられる(Zinner, 2014)。本研究では、プレソーラー粒子の動態(元素組成)とサイズから元素の輸送過程を制約できると考え、個々のプレソーラー粒子について幅広い質量範囲での元素組成分析を行うことを目指す。さらに、プレソーラー粒子は隕石中微粒子の10万–100万個に1個と少量しか存在していない(e.g. Zinner, 1998)ため、多くのプレソーラー粒子を分析するためには隕石中の微粒子を高速分析する必要がある。このような背景から、高速で微粒子個々の多元素同時分析を行うことができる飛行時間型ICP質量分析法(ICP-TOF-MS)の利用を考えた。

 ICP-TOF-MSで粒子の分析をする際には一度に多くの微粒子を測定するため、膨大な粒子データを迅速かつ視覚的に解析する必要がある。そこで、微粒子の組成・サイズを三角図や三角柱図に表示するソフトウェア(NP Shooter)の開発を行った。

 今回は、プレソーラー粒子分析の前段階として、隕石中微粒子の組成の定量分析と鉱物判別を行うことを目指した。本発表ではまず、隕石中に存在する鉱物に含まれるがN2, O2と同重体干渉を持つ28Si, 32Sを測定するために、測定条件や補正方法を改良し、かんらん岩(dunite)と硫化鉄(pyrite)から液中レーザーアブレーション法(LAL法)により生成した粒子をICP-TOF-MSで測定した結果から定量分析が可能かを確認する。さらに、Allende隕石のマトリックスからLAL法により抽出した粒子を、ICP-TOF-MSを用いて28Si, 32Sが測定可能な条件で分析し、得られた微粒子個々の組成・サイズをNP Shooterで解析した結果を示す。

発表者:高久侑己

Speaker:Yuki Takaku

タイトル:関東地方に飛来した新しいタイプと推察されるCsボールの解析、特性の解明

Title : Analysis and characterization of Caesium-bearing microparticles (CsMPs) presumed to be a new type flying into the Kanto region

 2011年の東日本大震災に伴う福島第一原発事故により膨大な量の放射性物質が環境中に拡散された。この事故では多くの放射性核種が放出され、現在も深刻な問題となっている。その主な原因となっているのは半減期が約30年と長い137Csである。放射性Csは原子炉内の235Uの核分裂反応により、生成される。そして、事故時にはほとんど気体状態になっており、環境中に拡散された後地面に落ちて鉱物の粒に融合したと考えられている。そのため、当時の除染対策としては土壌深さ数cmくらいを除去し、フレコンバッグに詰めるといった方法がとられていた。しかし、一部はµmサイズの粒子に取り込まれ、環境中に放出されたといわれており、その粒子をCsボールという。

 Csボールとは、福島原発事故後に発見された不溶性かつ高Cs比放射能を持つ微粒子で、Type-Aと呼ばれる基本的には球形かつ、粒子サイズが 1 ~ 10 µmのものと、Type-Bと呼ばれる不定形で粒子サイズが 50 ~ 400 µmのものが存在する。Type-Aは福島県や関東地方にて発見された報告例があるが、Type-Bはサイズが大きく飛来しにくいことから福島原発周辺にて発見された報告例しか存在しない。

 しかし、本学のアイソトープ総合センターに所属する桧垣先生らにより、事故後数日経った時期に関東地方にて回収したサンプルからCsボールを単離し、IP (Imaging Plate) の輝点からカウント分布解析を行ったところ、関東地方では過去に報告例が無い不定形のCsボールが飛来した可能性が示唆された。また、カプトンテープによる乾式分離により、前述した不定形のCsボールは可溶性の可能性もあり、これまでに報告されてきたCsボールとは特性が大きく異なる可能性も示唆された。そこで、私はこのCsボールをGe半導体検出器や SEM (Scanning Electron Microscopy) を用いてCsボールの解析、特性の解明を行っている。

 本発表では、その実験結果について紹介する。また、私が本学理学系研究科地球惑星科学専攻に所属されている小暮先生に、依頼されているCsボールの定量評価の基礎研究についても紹介する。