2022年11月11日

Date: 16:00 – 18:00, Friday, November, 11, 2022

講演者: 伊藤 颯

Speaker: Hayate Ito

タイトル:高圧下その場熱測定装置の開発

Title: The development of in-situ thermal measurement system under high pressure

比熱は単位質量の物質を単位温度上昇させるのに必要な熱量である。自由エネルギーやエントロピーといった熱力学量が物質の状態を特徴づける上で最も重要な量の一つである一方、これらの熱力学量を直接測定することはできず、比熱測定を通して計算されることとなる。そのため比熱測定は熱力学的性質を議論する上でとても重要である。一方、高圧下その場比熱測定は、サンプルサイズが小さいことや、高圧装置とサンプルが原理的に断熱できないことなど技術的な制約が多く今に至るまでほとんどなされてきていない。本研究では交流法を用いた高圧下その場比熱測定装置の開発を目指している。交流法とは交流熱を加えた際のサンプルの熱の伝わり方を測定することにより比熱を求める手法で、サンプルの大きさを問わず、原理的に外部と断熱する必要がないため高圧装置との相性が比較的良い。本発表では現在設計しているセルの性能のテストを行ったのでその結果と今後の改善点を発表する。

講演者: 大石和奈 (小宮研)

Speaker: Tomona Oishi

タイトル: 太古代初期の希ガス同位体組成の探究

Title: Search for intrinsic noble gas signature in Archean ultramafic rocks

希ガスは存在量が少ないためその相対的な変化が見やすく、化学的に不活性であるため、その同位体比は地球の進化をたどる上で有用なトレーサーとなる。しかし希ガス同位体組成には、現代の値しかはっきりとわかっていないという問題点がある。古い時代の希ガス同位体組成がはっきりわかっていない原因として、その時代の希ガスを保持しているサンプルが少ないことと、残っていたとしても後の時代のコンタミで上書きされてしまっていることが挙げられる。例えば27億年前のコマチアイトについてヘリウム同位体比を分析した先行研究では3He/4He = 30Raという現在のマントルの8Raよりは明らかに大きい値が得られている。しかしこれは放射壊変起源4Heの影響を大きく受けた値だと考えられており実際にはさらに高かったと予想されているが、太古代の値を直接示した研究は今までに発表されていない。さらに、ネオンより重たい希ガスについては太古代の値が考えられた先行研究はほとんどない。

そこで太古代の岩石から当時の希ガス同位体を探るために、39億年前のカナダ ラブラドル サグレックブロックのオフィオライトと、35億年前の南アフリカ バーバートングリーンストーンベルトのコマチアイトに含まれる希ガス同位体組成を分析した。両者とも変成・変質を受けているが、バーバートンのほうが変成度は低いとされている。また、ラブラドルのサンプルについてはラマン分析を行い、視認できる包有物がメルトと斜方輝石であることを確認した。サンプルによってバルク分析をしたものとオリビンのみをハンドピックして分析したものがあり、抽出手法としては1段階と多段階の破砕を適用した。

その結果得られた3He/4Heは0.036~1.1Raと太古代の推定値80~90Raを大きく下回った。これは先行研究と同様に放射壊変起源4Heの影響を受けていると考えられ、マントル由来ヘリウムが見られない結果は、ラマンによる分析でオリビン中に流体包有物が見られなかったことや、このサンプルが変成・変質を受けていることと矛盾しない。ネオン同位体比は現在の大気と比較して21Ne/22Neが高く、20Ne/22Neが低い傾向があった。これの原因としてはフッ素や酸素からの核反応起源ネオンが考えられる。アルゴン同位体比は基本的には現在の大気を起点として38Ar/36Ar、40Ar/36Arともに増加していく傾向が見られ、先行研究と比較して似たような結果が得られた。84Kr/36Ar –132Xe/36Arダイアグラム上では、ほとんどのサンプルが現在の海水、変成した海洋地殻、現在の大気の3成分系の中に収まった。しかし、一部84Kr/36Arが低い方向にずれたものがある。これらの原因としては、分配や、取り込まれた当初と現在の大気組成の違いが考えられる。

分析を通して低い20Ne/22Neや 84Kr/36Arなど複数の特徴的な同位体・元素組成が得られた。しかし、いずれも一部のデータに限られた傾向にとどまっており、太古代の希ガス同位体組成を解読するにはさらなる研究が必要だ。