Date: 16:00 – 18:00, Friday, January, 27, 2023
発表者:村岡賢佑
Speaker:Kensuke Muraoka
タイトル: 非晶質炭酸カルシウム(ACC)の結晶化における各種パラメーターの影響
Title:Effect of various parameters on crystallization from amorphous calcium carbonate (ACC)
生体鉱物として普遍的に存在する炭酸カルシウムには主に、常温常圧で安定相のカルサイト、高温高圧で安定相のアラゴナイト、準安定相のファーテライトが存在する。これらの結晶多形に加えて、生体鉱物の前駆体となる非晶質炭酸カルシウム(Amorphous Calcium Carbonate: ACC, CaCO3・nH2O, n<1.5)が存在する。ACCは容易に結晶化させることができ、加熱した場合は350°C付近でカルサイトに、加圧した場合は1 GPa未満でカルサイトとファーテライトに結晶化すると報告されている(Kojima et al., 1993; Yoshino et al., 2012)。また、湿潤条件下では湿度が60%以上の場合に結晶化するという報告がある(Xu et al., 2006)。このように、ACCからカルサイトやファーテライトの生成は容易である一方で、アラゴナイトの生成は困難であり、報告例も限定されている。例えば、ACCをエタノールに分散させてそこに塩化マグネシウム水溶液を加えて震盪してアラゴナイトを生成したという報告がある(Zhang et al., 2012)。
炭酸カルシウムを合成するという観点では、塩化カルシウムと炭酸ナトリウムの混合溶液のpHを11付近にするとアラゴナイトが優勢に生成する報告や、アミノ基を持つ有機物を水酸化カルシウム水溶液と混合して二酸化炭素を吹き込むとアラゴナイトが生成する報告がある(Tai and Chen, 1998; Chuajiw et al., 2014)。このように、炭酸カルシウムの結晶多形を制御するには添加物やpHなど、さまざまなパラメーターがあることがわかっている。
前回の発表では湿潤条件下での結晶化の際に、水溶液中においてアラゴナイトの生成を促進するという報告があるブチルアミンをACCに添加して結晶化を行ったところ、アラゴナイトの生成が確認できたことを報告した。そこで今回は、湿潤条件下での結晶化においてどのパラメーター(pHや添加物の影響など)が重要な役割を持つかを調べた。また、添加するブチルアミンと水の比率がACCの結晶化において得られる多形の違いを、ACCをブチルアミン水溶液中に分散させて結晶化を行うことで調査した。生成物の多形を粉末X線回折で決定した。本発表ではその結果について報告する。
発表者:角森史昭
Speaker:Fumiaki Tsunomori
タイトル: 地震火山相互作用の検出を目的とした地下水溶存ガスの連続観測
Title:Groundwater Gas Observation to Detect Interaction between Volcanic and Seismic Activities
今回のセミナーでは、阿蘇・熊本地域で行っている温泉溶存ガスの連続観測の結果について紹介する。
本研究の目的は、阿蘇山の火山活動と布田川断層周辺の地震活動の相互作用があるかを、温泉溶存ガスに含まれる深部起源ガスの時系列変化によって確認し、その様式について述べることである。これまでのところ、阿蘇山の噴火活動を溶存ガスの組成変化として検出できた可能性はあるが、布田川断層の地震活動に関連する溶存ガスの変化は見つかっていない。そこで、布田川断層上の観測点を阿蘇山により近い場所に移設して現在も観測を継続している。
2016年に発生した熊本地震では、日奈久断層と布田川断層の結節点を震源とする地震と、日奈久断層内を震源とする地震が大きな被害をもたらした。この時の余震域は、阿蘇山内部まで伸びており、阿蘇山の火山活動と断層内の地震の発生に相互作用があるのではないかと予想された。Aizawa(2021)が明らかにした布田川断層に沿った領域のVp/Vs構造によると、熊本地震の震源域に流体を供給するかのような低速度域(C1)と阿蘇山直下の低速度域(C2)が確認された。阿蘇山の火山活動と布田川断層の地震活動に相互作用があるとすれば、これらの低速度域から供給される流体が関与している可能性がある。もしそうだとすると、C1とC2から供給される深部起源流体の組成の時系列にも相関があるかもしれない。そこで、本研究では、C1とC2から供給される深部起源流体を検出することを目標とし、それらの時間変化に相関が見つかれば、相互作用の様式について議論することを目指している。
Morikawa(2019)によると、阿蘇・熊本地域にはヘリウム同位体比が高い温泉が点在している。このうち、布田川断層沿いの温泉と阿蘇山カルデラ内の温泉の2カ所に観測装置を設置して、溶存ガスを抽出し四重極質量分析計で継続的に観測した。阿蘇カルデラ内の観測点ASOでは、採水深度35mから常時揚水されている温泉を観測対象とした。2021年10月の噴火の前から組成が乱れ始め、2022年の1月頃には乱れはなくなったが、温泉水中の大気混入量が大きく増えた。これは噴火前後で温泉地域に供給される深部起源ガスの量が相対的に少なくなったと考えられる結果である。一方、布田川断層沿いの観測点KUMでは、採水震度1100mから間欠的に揚水されている温泉を観測対象とした。阿蘇山の噴火時も周囲で起きる地震発生にも呼応するような、溶存ガスの組成変化は認められなかった。これは、ASOとKUMの組み合わせでは、地震と火山の相互作用を検出できなかったことを意味している。そこで、断層沿いの観測点をより阿蘇山に近い布田川断層に沿った観測点OTNに移設して、2022年12月から観測を始めた。ここでの溶存ガス組成はKUMに比べて安定しているように見える。今後は、OTNのデータの変化に注目して行く予定である。