2023年2月10日

Date: 16:00 – 18:00, Friday, Fabruary, 10, 2023

発表者:小松一生

Speaker:Kazuki Komatsu

タイトル:AlPO4-5に見られる不整合構造について

Title:On the incommensurate structure of AlPO4-5

「結晶」を定義づける性質は、3次元的な周期性であると長い間教わってきた。ところが、5回対称性を示す準結晶の回折パターンの発見に端を発して「結晶」の定義が見直され、現在では”(基本的に)シャープな回折パターンを示す物質 (‘a material which exhibits essentially a sharp diffraction pattern’)”と定義されている[1,2]。実際のところ、シャープな回折パターンを示しながら3次元的な周期性を示さない「結晶」は無数に存在する。今回紹介するAlPO4-5(ゼオライトの一つ)もその一種、(不整合)変調構造を持つ結晶であることが、最近行った単結晶X線回折によって明らかになった。変調構造とは、基本構造にわずかな原子変位または占有率(あるいはその両方)の変調が加わって長周期の構造を作っているものをいい、さらにその変調周期が基本周期の簡単な有理数倍でないものを不整合構造という。変調構造は、基本構造のブラッグ反射である主反射の周囲に存在する衛星反射の存在で特徴づけられる。変調構造は、変調周期を示す方向に対応する次元を追加して、(3+d)次元(dは1以上の整数)の座標系で記述すると系統的に理解することができる。変調構造をはじめ高次元空間を利用することで記述できる物質は極めて一般的・普遍的に存在するものの、衛星反射の強度の弱さからその存在が認識されてこなかったか(AlPO4-5の場合はおそらくこれに該当すると思われる)、あるいは解析の困難さ・煩雑さから意図的に敬遠されてきた。しかし裏を返せば、変調構造には未踏領域が数多く存在するということであり、実際ここ数年、国内外(特に海外)で変調構造研究が流行の兆しを見せている[3]。

本発表では、単結晶X線回折によるAlPO4-5の不整合構造の解析を中心に、変調構造の高次元構造解析について基本的な考え方を紹介したい。

[1] https://dictionary.iucr.org/Crystal

[2] https://onl.tw/E9GepsT  (Evolution of definition)

[3] 例えば国内では、準結晶がメインの研究対象ではあるが、新学術領域「ハイパーマテリアル:補空間が創る新物質科学」が採択されている。 youtubeでの紹介 https://onl.tw/nPUG1hL

発表者:小杉周平

Speaker :  Shuhei Kosugi

タイトル:多重検出方式のICP質量分析法による高精度第四紀ジルコン年代測定に向けたファラデー検出器とデイリー検出器の信号応答性の比較

Title:Comparison of Faraday and Daly Detectors for Accurate Quaternary Zircon Dating by Multiple Collector ICP Mass Spectrometry

火山噴火過程やマグマ活動を正確に評価するためには、 それらに関する数十万年前より若い地質イベントにおける年代情報の取得が有用である。これまでの研究では、数十万〜十万年前の若いジルコンに対してレーザーアブレーションICP質量分析法を用いたTh–Pb年代(Sakata et al., 2017)やU–Th年代(Niki et al., 2022)の取得が試みられてきた。しかしながら、これらの測定ではシングルコレクター型のICP-MSを用いており、同位体比の測定には一つの検出器を質量走査させる必要があるため、過渡信号への追跡性能が低く、得られた同位体比の正確性に疑問が残る。
そこで本研究では、マルチコレクター型のICP-MSに注目し、この方法を用いた数十万〜十万年前のジルコンに対するTh–Pb年代やU–Th年代の取得を目指すことにした。このような鉱物の年代測定には6–7桁のダイナミックレンジが必要で、そのためにはデイリー検出器とファラデー検出器という2種類の検出器を用いる必要がある。しかしながら、これらの検出器は信号が変化した際の安定化にかかる時間に0.1秒程度の違いがあり、正確な測定のためにはその違いを補正する必要がある。 今回はその補正法の作成に向けて、二つの検出器の信号応答性の違いを検証した。本発表ではその結果について報告する。