2023年10月13日

Date: 16:00 – 18:00, Friday, October, 13, 2023

発表者:仁木 創太
Speaker: Sota Niki

タイトル:レーザーアブレーションICP質量分析法を用いて固体試料に含まれる元素・同位体を測るとはどういうことか
Title: The nature of elemental and isotopic analysis using laser ablation ICP mass spectrometry

高効率な局所サンプリング法であるレーザーアブレーション法と高いイオン化能を誇るプラズマイオン源であるICPを組み合わせ、質量分析法を用いてイオン化した試料を計測するLA-ICP-MSはpg g-1の微量元素まで分析可能な高感度無機分析法である。LA-ICP-MSは試料のサンプリングとイオン化を独立に実施するポストイオン化を実現した分析法であり、そのおかげで非スペクトル干渉(マトリクス効果)を抑えた元素・同位体分析を実施することができる(e.g., Becker and Dietze, 2000)。

しかしながら、正確な元素比・同位体比分析が要求される研究分野、例えば放射年代測定結果に対して数%の系統誤差も許容されない地質年代学分野、においては正確な元素・同位体分析結果であることを確かめるため、マトリクス合致標準の分析結果に基づき分析データを評価することが必要とされる(e.g., Jackson et al., 2004)。マトリクス合致標準には主要化学組成、材質、目的元素濃度などの観点で未知試料と近い標準物質が用いられるが、任意の固体試料についてマトリクス合致標準を準備することは困難であり、結果としてそのような標準物質を必要とする研究分野の進展の妨げとなっている。

そこでLA-ICP-MSを用いた分析におけるマトリクス効果とは何かを突き詰めるには、分析の素過程を理解する必要がある。LA-ICP-MSを用いた分析の素過程をおおまかに列挙すると、レーザーアブレーション時の固体試料表面からの微粒子(およびガス)放出、プラズマイオン源への試料の輸送および導入、プラズマイオン源内部でのイオン化、イオンの質量分析装置への引き込み、イオン検出器での計測に細分化される。以上を総括すると、LA-ICP-MSを用いて得られる分析結果は微粒子分析の総和であると言える。このことはLA-ICP-MSの微粒子分析としての側面が重要であることを示唆し、実際に先行研究において、レーザーアブレーションにより生じる微粒子の粒径分布や化学組成はマトリクス効果の主要因として指摘されている(e.g., Guillong and Günther, 2002)。

本発表では真鍮に対してレーザーアブレーションを実施し、生じた微粒子に由来する同位体信号が重複しないように高時間分解能イオン検出器を複数搭載したICP-MSへと導入することで、ICP-MSを用いた微粒子一粒ごとの亜鉛同位体比、銅同位体比、元素組成、粒径の計測を実施した。分析結果を踏まえてその系統誤差の要因やレーザーアブレーション時の微粒子生成過程に関する議論を行う。

発表者:森 悠一郎
Speaker:Yuichiro Mori

タイトル:含水SiO2の弾性波速度測定
Title:Elasticity of hydrous SiO2 at high pressure

含水SiO2 post-stishoviteは下部マントル中域以上の圧力でも水を保持したままコア・マントル境界の深さまで沈み込むことが実験的に示唆されている[Zhang et al. (2022) JGR Solid Earth; Ishii et al. (2022) PNAS]。一方で、これらの弾性波速度の測定実験は数が非常に限られ、その実験もスラブ近傍のS-to-P地震波散乱体の深さに相当するような下部マントル中域までの圧力で強弾性転移にともなう弾性波速度の低下を対象にしたものが多く、下部マントルの中域〜マントル最下部までを一貫しておこなった実験はこれまでにない。本発表では合成した含水SiO2 post-stishoviteの高圧下その場弾性波測定実験の結果を述べる。