2023年10月20日

Date: 16:00 – 18:00, Friday, October, 20, 2023

発表者:中里 雅樹
Speaker: Masaki Nakazato

タイトル : ICP質量分析法によるコンドライト中の微粒子の個別同位体分析
Title: Isotopic analysis of individual particles in chondrite using ICP-MS

プレソーラー粒子は炭素質コンドライトのマトリックスに微小量存在し(例えばプレソーラーSiCは数~数十ppm程度存在:Huss and Lewis, 1994; Davidson et al., 2014)、核合成起源の同位体組成を保持した物質と考えられている。特に太陽系に存在する重元素(鉄より原子番号の大きな元素)の起源は未だ解明されておらず、プレソーラー粒子中の重元素同位体組成は、重元素の合成過程と太陽系への輸送過程の情報を保持した物質的な証拠として注目されている。このような情報を得るためには、プレソーラー粒子個別の元素組成および同位体組成を分析できるような手法が不可欠である。

多くの先行研究では (i)酸分解法による特定のプレソーラー粒子の単離・濃集(Amari et al., 1994)と (ii)二次イオン質量分析法や共鳴イオン化質量分析法による粒子個別の同位体分析がされてきた(e.g., Hoppe and Ott, 1997; Ireland et al., 2018; Stephan et al., 2019)。これらの手法では、酸に溶けないSiCやグラファイトなどの限られた粒子に対して、主に窒素や酸素、ケイ素などの特定の軽元素の同位体異常を以って“プレソーラー粒子”と判別されてきた。しかしながら、マトリックスの大部分を占めるケイ酸塩粒子や重元素に富む金属粒子は酸で分解されてしまうため、これらのプレソーラー粒子は分析できない。さらに従来法では、モニターしていない元素(例えば重元素)で同位体異常があった場合に、その粒子をプレソーラー粒子と判別することができないという問題があった。以上のような試料バイアスは、これまでの研究で重元素合成、特にr過程の情報を保持したプレソーラー粒子が発見されてこなかったことに影響していると考えられる。

これらの課題を受けて、本研究では液中レーザーアブレーション法(LAL法:Okabayashi et al., 2011; Kurihara et al., 2023)と飛行時間型ICP質量分析法(ICP-TOF-MS法)を組み合わせ、試料バイアスが少なく、かつ重元素も高感度に分析できるような、全く新しいプレソーラー粒子の個別分析法の開発を目指した。これまでの研究では、微粒子の個別同位体分析に向けたICP-TOF-MSの高感度化や、正確な同位体分析が可能な信号強度範囲の評価などを行なってきた。これらを踏まえた上で、実際にMurchison隕石のマトリックスからLAL法で微粒子を抽出し、得られた微粒子分散液をICP-TOF-MSに導入して微粒子ごとの同位体信号を計測した。本発表では、ICP-MSによる微粒子計測の基礎をおさらいしつつ、Murchison隕石中の微粒子に見られたTi同位体比の異常値とその起源、キャリアー物質について考察する。