Date: 16:00 – 18:00, Friday, March, 1, 2024
発表者:平田 岳史
Speaker: Takafumi Hirata
タイトル:Laser Ablation Technique – A Scientific Evergreen
Title: 平田研は化学分析しかしていないと思った貴方へ
固体試料に小さく絞り込んだ高エネルギーレーザーを照射すると、試料の一部は1万度以上に加熱され、固体構成元素は一気に気化する。レーザーエネルギーの一部は固体内部にまで入り込み、内部でのエネルギー放出により固体試料が破砕され、爆発的に放出される。これをレーザーアブレーション現象とよぶ。レーザーアブレーションにより生成した気化成分や試料エアロゾルを質量分析計に導入することで、固体試料の化学組成や元素の同位体組成に関する情報を引き出すことができる。平田研のメンバーは、レーザーアブレーション法にICP質量分析法を組み合わせることで、超微量元素分析や広い年代レンジでの高精度年代測定を行っている。また、レーザーアブレーション法を、独自に開発した誘電体バリア放電(DBD)をイオン源として用いた質量分析計に導入することで、分子を熱的に分解(フラグメント化)することなく、有機化合物の分子量情報を引き出すことも可能である。私達の研究室では、レーザーアブレーション法に、ICP質量分析計とDBDイオン源質量分析計(DBDI-MS)を同時に組み合わせることで、無機元素と有機分子の同時イメージング分析法を実用化した。また最近では、レーザーアブレーションを水中で行うことで(液中レーザーアブレーション法:LAL法)、固体物質のナノ粒子化や、固体試料に含まれる微小粒子のサンプリング法を行っている。LAL法を応用することで、隕石のマトリックスから微粒子の抽出を行い、超高速質量分析計を用いたナノ粒子の個別化学分析・同位体分析にも挑戦している。こうした研究成果は研究室の学生の発表等を通じて紹介指せていただいている。
しかし、皆さんの固定概念を打破する時期が来ている。最近の研究を通じて、レーザーアブレーション法が固体物質の物性評価にも応用できる可能性が出てきた。今回の発表は、平田研は元素分析しかしていないと信じ混んでいる方達への諧謔への一歩としたい。
The greatest pleasure in life is doing what people say you cannot do. – Walter Bagehot
発表者: 高橋 菜緒子
Speaker: Naoko Takahashi
タイトル:沈み込み帯条件下における熱水流体中のタングステン溶存化学種に関する実験的研究
Title: Experimental investigation of tungsten speciation in hydrothermal fluids under subduction zone conditions
タングステン (W) は、産業需要の拡大とグリーンテクノロジーへの応用に不可欠なクリティカルメタルとして認識されている。この金属は、地殻やマントルにおいて不適合・流体移動性元素であり、その安定同位体比は地質学的プロセスを解読するトレーサーとしても近年注目されている。しかしながら、地殻・上部マントルにおけるWの地球化学的循環に関する体系的な理解はいまだに得られていない。例えば、中央海嶺玄武岩のタングステン濃度は0.1 ppm以下であるにもかかわらず、スカルン・斑岩型鉱床などの熱水鉱床ではどのようにして数千ppmレベルまで濃縮されるのだろうか?地球内部のWの循環について、溶解・沈殿などの素過程から理解を深めたい。
これまでの熱水流体中のWに関する溶解度実験では、W(VI) は主にタングステン酸イオン (WO42-とHWO4-) とそれらのイオンペアとして溶解すると考えられてきた。しかしこの見解は、常温常圧下でケイ酸塩がSiO4四面体のクラスター形成をしてポリケイ酸塩を与えるのと同様に、タングステン酸イオンが八面体形ユニットを形成し溶液のpHに応じて多様なポリ酸イオンを形成するという一般的な知見とは対照的である。近年、シリカキャピラリー管を用いたin-situラマン分光実験により、比較的低い温度圧力条件400 °C、60 MPaまでの酸性から中性の水溶液でW(VI) のポリクラスターが安定であることが示唆された (Carroci et al., 2022, Geochim. Cosmochim. Acta)。本研究では、ダイヤモンドアンビルセルを用いて高温高圧領域にアプローチし、室温および最高750℃、最高1.2 GPaまでのWが溶解した酸性からアルカリ性流体のラマン分光測定を行った。酸化タングステン飽和流体および一定濃度の酸性からアルカリ性流体において、高圧下では温度の上昇とともにポリクラスターに起因するラマンバンドが顕著になることが新たに見出された。本発表では、この実験結果を詳細に紹介するとともに、W(VI) の溶存状態を制御する要因 (温度、圧力、pH) について議論を深めたい。