Date: 16:00-18:00, Friday, November 8, 2024
講演者:米田 羅生
Speaker: Rai YONEDA
タイトル:斑晶の希ガス同位体比に基づく霧島火山マグマ供給系への示唆
要旨:
希ガスは化学的に不活性であり、地球化学的リザーバーによって元素比、同位体比が大きく異なるため、地球上や地球内の物質の起源を知るためのトレーサーとして有用である。例えば、ヘリウムの同位体比(3He/4He)は大気中で1.4×10^-6 (これを1 Raと定義する)であるのに対し、地殻では3He/4Heの高い始原的ヘリウムがほとんど脱ガスし、濃集したウランやトリウムのα崩壊に由来する4Heが蓄積するため0.02 Ra程度まで低くなる。マントルではそのような始原的ヘリウムが比較的保存されているため、8 Ra程度まで高くなる一方、島弧の火山においては、マントル成分に地殻成分が混入することにより、8 Raよりは低い同位体比となる。希ガスが含まれる地質的試料のうち、かんらん石や輝石は火山噴出物に比較的多く含まれる鉱物であり、マグマが固化する際に結晶相へは希ガスがほとんど分配されず、かつ鉱物中の希ガスの拡散が遅い。そのため、その鉱物にメルトインクルージョンがあれば、そこに保存された結晶化時の周囲のマグマの希ガス同位体組成を分析することができる。
本研究の目的は、かんらん石、輝石斑晶の希ガス質量分析により、霧島火山のマグマ供給系を希ガス元素比、同位体比によって特徴づけることである。霧島火山を選定した理由には、新燃岳で2011年に発生した地質学的に新しい試料が手に入る点、地球物理学的観測や岩石学的調査から、地下10km付近に玄武岩質、5km付近に珪長質のマグマだまりの存在が示唆されている(Suzuki et al., 2013; Aizawa et al., 2014)点、硫黄山などの噴気中の希ガス同位体のデータ蓄積がある点の3つが挙げられる。よって本研究では、斑晶と噴気の希ガス組成の比較を通じて、提案されている地下構造と希ガスの同位体組成を紐づける。
分析には新燃岳2011年噴火の灰色軽石を試料として用いた。軽石を破砕して粒径0.5-1mmのかんらん石、1-2 mmの輝石を集め、真空中で破砕して希ガスを抽出した(破砕法)。ガスを高温のTi-Zrゲッターで精製して液体窒素温度で冷却した活性炭トラップで分離したのち、希ガス質量分析計(modified VG-5400)で同位体組成を測定した。また、破砕した鉱物の粉末を1900℃で加熱してガスを抽出し(加熱法)、同様に分析を行った。破砕法ではメルトインクルージョンに含まれる気泡からガスが抽出されることにより斑晶に捕捉されたマグマの希ガス組成が測定できる一方、加熱法では鉱物が溶融することで、気泡からのガスに加えて結晶中に捕獲されていたガスも抽出される。このガスはかんらん石の結晶中に取り込まれたウランなどのα崩壊によって生じたものである。
破砕法によるヘリウムの同位体比はかんらん石、輝石それぞれにおいて3He/4He=7.53±0.10 Ra、8.0±0.3 Raとなり、加熱法においてはそれぞれ5.05±0.08 Ra、4.99±0.09 Raとなった。かんらん石は水の定量によって玄武岩質マグマ溜まりで晶出したと推定されている(Suzuki et al., 2013)ため、このマグマ溜まりは3He/4He=7.53 Raとして特徴づけることができた。輝石はこれより同位体比が高く、より深い部分から持ち込まれた結晶である可能性がある。また、加熱法の同位体比が破砕法に比べて低下したということは結晶中でα崩壊による4Heが生産されたということであり、晶出してから10 kaオーダーの時間が経過していることを示唆している。
また、損傷の少ない自形のかんらん石を選別して破砕法による抽出で分析したところ、3He/40Ar* (40Ar*は大気に比べて過剰に含まれる40Ar)が2×10^-4となり、噴気に比べて1桁程度以上高かった。噴気の3He/40Ar*はマグマ発泡度が高くなるほど低い値からマグマ自体の3He/40Ar*に近づくことから発泡度の指標となることが提案されており(Obase et al., 2022)、噴気の3He/40Ar*が10^-6-10^-5である現在は発泡度が高くなく、活動が活発化して発泡度が高まるとこれが2×10^-4程度まで高まると考えられる。
講演者:信定 宗一
Speaker: Soichi NOBUSADA
タイトル:外熱DACを用いたアンモニアボランとK誘導体の分解挙動の考察
要旨:
水素貯蔵材料や、高温高圧実験における水素源として用いられているアンモニアボランNH3BH3は水素の貯蔵能力の高さから有用な材料として注目されている。常圧での分解実験から、アンモニアボランは三段階で分解が進み、500℃までにほぼすべての水素を放出することが分かっている。しかし、この分解実験から、100℃以下では脱水素化速度が比較的遅いことやボラジンやジボランといった副生成物の排出も多いことも分かっている。これらの問題点を解決するために、窒素原子と結合しているプロトンを金属元素に置き換えた金属アミドボラン特にカリウムアミドボランKNH2BH3に着目した。外熱DACを用いた分解実験を行い、カリウムアミドボランの有用性についてアンモニアボランとの比較を交えながら今後の展開も含めて議論する。