2017年5月9日

場 所:化学本館3階講義室
講演者:鈴木敏弘
タイトル:LA-ICP-MSを用いた高圧鉱物の2次元分析

レーザーアブレーション・プラズマイオン源質量分析計(LA-ICP-MS)は迅速かつ高感度の分析法として無機物質などの分析に用いられており、試料表面をレーザーで走査しながらICP-MSで測定することにより、2次元的に分析を行うことも可能である。近年のレーザー加工技術の進歩やICP-MS感度向上などによって、1mm程度の小さな超高圧実験試料でもLA-ICP-MSを用いて組成分布図を得られるようになった。今回はマルチアンビルで合成した超高圧実験試料のLA-ICP-MSによる2次元分析結果を紹介する。
超高圧実験の出発物質には、天然のカンラン岩(KLB-1)に希土類元素など26元素をそれぞれ200ppm程度加えた試料を用いた。東工大に設置されていた川井型マルチアンビル装置を用いて高温高圧実験を行い、高圧鉱物を合成した。試料はグラファイト・カプセルに封入し、円筒状のLaCrO3ヒーターにより加熱した。この合成実験ではまず20GPaまで加圧した後、約2400℃まで加熱して試料全体を融解させた。その後一時間かけておよそ1800℃まで徐冷して鉱物を徐々に晶出させることにより、高圧鉱物結晶を成長させた。こうして得られた高圧鉱物は、一つの結晶内でも晶出の初期段階と最終段階で微量元素等の組成が大きく異なっており、2次元分析を行えばその分布状態を調べることができる。回収した試料を研磨した後、まずEPMAにより組織観察と主成分元素分析を行った。続いてLA-ICP-MSを用いて2次元組成分析を行った。レーザーアブレーションには、ArFエキシマレーザー(パルス幅5ナノ秒)、またはTi-サファイアレーザー(190フェムト秒)を用い、四重極型ICP-MS(iCap-Q)を用いて分析した。
20GPaでカンラン岩組成の液体から最初に析出するのはGarnetとFerropericalseである。今回の試料でも、鉱物が最初に析出する試料両端部にGarnet+Ferropericalseが存在していた。結晶化が進行すると残存する液体の組成が変化するため、晶出する鉱物はGernet+Wadsleyiteとなり、試料中央部にはこれらの鉱物が存在していた。LA-ICP-MSを用いて2次元分析を行うと、結晶の成長に伴い組成が連続的に変化している事が観察された。通常の2次元分析では定性的に元素の分布状態を画像として表示するだけだが、今回のセミナーでは2次元分析データから半定量分析を行う試みについても紹介する予定である。