2019年1月11日

Date: 16:00-18:00, Friday, January 11, 2019
Place: 3F, Lecture room, Main Chemistry Build.
Speaker:Yoshiki Makino, Wataru Takahagi

日 時:2019年1月11日(金)16:00~18:00
場 所:化学本館3階講義室
講演者:槇納 好岐, 高萩 航

講演者1:槇納 好岐(Yoshiki Makino)
タイトル: レーザーアブレーション-誘導結合プラズマ質量分析法による鉄系メタル中の主成分から微量元素の同時分析
Title: Simultaneous determination of major to trace element in iron-based metal by laser ablation-inductively coupled plasma-mass spectrometry

要旨:
隕石中の鉄を主成分とするメタル中の微量元素組成は、それぞれのメタルの形成環境を示すトレーサーであり宇宙化学的に重要である。レーザーアブレーション-誘導結合プラズマ質量分析法(LA-ICP-MS)は高感度な固体の表面分析法でありメタルの微量元素分析に用いられている。
LA-ICP-MSでは既知濃度の内標準元素を補正に用いることで、分析試料間の導入効率の違いに起因する系統誤差を低減する。一般に天然試料の分析に際しては、まずXRDやSEM-EDSなどを用いて内標準となる元素を定量するため、検出感度の問題から内標準元素は主成分元素しか用いることができない。
しかしながら、二次電子増倍管を検出器とする一般的なLA-ICP-MSでは1~10^6~8 cps程度のダイナミックレンジであるため、主成分から微量成分(%~ppb)までを同時に測定することは難しい。
そのために本研究では質量分析系内部にHeガスを流し、イオンをHeと衝突させることで内標準元素の感度(信号強度/濃度)を選択的に減少させる方法を開発した。この手法により微量元素を高い信号強度で測定した場合においても主成分元素が飽和せずに測定が可能となり、結果的に高い検出感度を得ることが可能である。
本発表では、研究背景、分析法の動作原理および展望について発表する。

講演者2:高萩 航(Wataru Takahagi)
タイトル:エンセラダス熱水環境での非生物的ペプチド合成
Title: Abiotic peptide synthesis under Enceladus hydrothermal condition

要旨:
化学進化とは,単純な物質から複雑な化合物が無機的に進行する反応の連鎖であると考えられている.土星の衛星エンセラダスは直径が500km程であるにも関わらず今現在でも熱水活動を維持している特異な天体であり,その環境で化学進化が起こりうるのかということは生命科学/惑星科学における大きな疑問の一つである.エンセラダスは初期地球の熱水噴出孔に似た環境を持っていると言われており,地球の深海化学合成生態系に見られるような生命活動が存在できる可能性も議論されている.本研究では,アミノ酸が岩石-熱水相互作用を通してエンセラダス環境中でペプチド化するか,つまりは脱水縮合過程が存在するか否かを検証した.脱水縮合は複雑な有機物を無機的に合成していく手段であり,生命の化学進化論に基づくと,生命が誕生するための重要な条件の一つであると言える.本研究ではエンセラダスの岩石コア成分,海水成分,温度圧力条件を耐高温高圧リアクター内に再現し,模擬的にエンセラダス熱水環境を構築した.その模擬エンセラダス熱水環境に6種類のアミノ酸(Gly,Ala,Glu,Val,Ser,Asp)を加え,耐高温高圧リアクターで約150日間の化学反応実験を行った.その結果,アミノ酸の初期量の1%程度がジペプチド化し,さらにGlyのC末端が露出したジペプチドが多く合成される傾向が見られた.本研究は,エンセラダスのアルカリ熱水環境下で脱水縮合が起こりうることを初めて実験的に証明したものである.