2019年1月25日

講演者1:大野 鷹士(Takato Ono)
タイトル: 火山活動指標への応用を目指した火山性温泉水の高頻度サンプリング
Title: High-frequency sampling of volcanic hot springs for application to a volcanic activity index

要旨:
火山活動は火山体から大量の熱エネルギーと物質を持続的に放出する現象であり、火山噴火はその活動の一部である。したがって、火山体から放出される火山ガスや温泉水などの火山性流体を地球化学的に観測することは火山活動を評価する上で重要である。しかしながら、これらのサンプリングは研究者が直接現場に赴いて実施することがほとんどで、長期的な数時間・数日単位の高分解能データを得ることが難しい上に、季節や頻度も一様でないため、火山性流体の化学組成における潮汐や気象要素などの非火山性要因による変動の有無や地球物理学的観測から得られる地震活動・地殻変動データ等との関連性を詳細に評価することができなかった。
そこで本研究では、現時点で火山性温泉水の溶存イオン濃度と安定同位体組成を対象とし、高頻度のデータ取得を目指している。
本発表では現状の報告に加え、今後の方針についてもお話しする。

講演者2:福山 鴻(Ko Fukuyama)
タイトル:打ち込み標準試料を用いたstishoviteへの窒素取り込み量の検討および地球深部窒素循環への考察
Title: Investigation of nitrogen incorporation into stishovite using implanted sample and outlook on deep nitrogen cycle.

要旨:
窒素は地球大気の約8割を占め、生命の必須元素である。このため、地球における気候、生命起源をはじめとし、地球科学の多方面において窒素は極めて重要な揮発性元素である。しかし依然として、地球内部における窒素の挙動や循環については詳細には理解できていない。例えば、コンドライトモデルから推定される地球内部の窒素量 (McDonough, 1995)に対して、MORB等の天然試料の分析から見積もられる地球内部の窒素量は、他の揮発性元素の1/10未満であることが知られている (Marty, 2012)。この原因として、マグマオーシャンを経ることにより、上部マントル、マントル遷移層、下部マントルに窒素が貯蔵されている可能性(e.g. Li et al., 2013; Yoshioka et al., 2018)が示唆されてきた。しかし、地球で最も容量が大きい下部マントルでの窒素の貯蔵に関する先行研究(Yoshioka et al., 2018)は十分でなく、実験点が一点のみである。加えて、地球は太陽系においてプレートテクトニクスが現時点で唯一確認されている惑星であり、マグマオーシャンだけでなく、沈み込むプレート (沈み込むスラブ)を介した揮発元素の循環は注目すべき地球科学的現象である。
そこで本研究では、下部マントルへ窒素を運びうるstishoviteに窒素がどれほど取り込まれるか検討するため、27 GPa、1400 ̊C-1700 ̊Cの条件で高温高圧実験を行った。実験には愛媛大学GRCのマルチアンビル高圧発生装置を使用し、下部マントル相当の酸化還元状態のコントロールにはFe-FeO bufferを用いた。急冷回収試料中の窒素の分析には大気海洋研究所のNanoSIMSを使用し、標準試料として、石英ガラスやstishovite単結晶に窒素イオンを打ち込んだ試料をNIMSで作成させていただいた。
一連の実験結果から、stishoviteに最大で200ppm近く(現時点で最大218 ppm)窒素が取り込まれることが本研究から分かった。Stishoviteは沈み込むスラブにおける堆積岩層、MORB層に10-20wt% (e.g. Ono et al., 1998; Ono et al. 2001)、沈み込む大陸地殻に至っては25vol%含まれる鉱物であり (e.g. Irifune et al., 1994)、有力な下部マントル以深への窒素キャリアーとなりえる。