講演者1:山本康太 (Yamamoto Kota)
タイトル: 多重検出器型ICP質量分析計を用いた生体銅の化学形態別同位体比測定に向けた開発状況
Title: Current status of developing MC-ICP-MS technique for speciation-based stable isotope of vital copper
要旨:
生体中の銅は酵素の活性中心である一方、活性酸素の発生原因となりうることから、細胞内の銅濃度および化学形態は制御されている。恒常性機能により、細胞あるいは細胞外液中の銅濃度は、必ずしも栄養状態や代謝異常を反映しない。一方で、物理化学的反応を通じて反応物と生成物で構成元素の同位体組成に違いが現れる。この同位体効果により、生体中の銅同位体組成は部位ごとに異なり、生体中での銅の分配量の変化を反映すると考えられる。実際に、銅同位体比の医療への応用を視野に入れた予備研究の報告もある。こうした背景から、生体内における銅同位体比の変動成分を明らかにすることが重要であると考え、化学形態別の銅同位体比の測定を目指している。本発表では、現状の報告に加え今後の方針についても述べる。
講演者2: 森井志織 (Morii Shiori)
タイトル: 放射性セシウム含有不溶性微粒子に注目した福島第一原発事故由来放射性セシウムの環境中分布と形態
Title: Distribution and formation of radiocesium derived from Fukushima Dai-ichi nuclear disaster in environment, focusing on radiocesium-bearing micro particle
要旨:
2011年3月、福島第一原子力発電所事故により大量の放射性同位体が環境中に放出された。中でも、放射性セシウムである¹³⁴Cs(半減期約2 年)と、¹³⁷Cs(半減期約30 年)は他の放射性同位体と比べて比較的半減期が長いため、現在でも環境中に残存している。事故由来の放射性セシウムは当初、エアロゾル中に可溶体として含まれていると考えられていたが、後に放射性セシウムを含有する水に不溶な微粒子、radiocesium-bearing micro particle(いわゆるセシウムボール)の存在が明らかになった。
セシウムボールは水に不溶な性質から、体内に取り込まれた場合に肺や鼻腔などに吸着し、長時間留まる可能性が指摘されている。そのため、局所的な内部被ばくを引き起こす可能性がある。
本研究では2012 年春に福島県在住の一般市民が日常生活の中で着用した不織布製マスクに付着した放射性セシウムについて、セシウムボールに特に注目して分析を行っている。
本研究の目的は、放出されたセシウムボールの時間軸を含めた4次元的分布を把握し、放出された放射性セシウムの形態やその存在度について明らかにすることである。
本セミナーでは現在までの分析結果の報告と、今後の計画について紹介する。