2019年11月15日

Date: 16:00-18:00, Friday, November 15, 2019
Place: 3F, Lecture room, Main Chemistry Build.
Speaker:Ryo Yamane, Yoshiki Makino

日 時:2019年11月15日(金)16:00-18:00
場 所:化学本館3階講義室
講演者:山根崚、槇納好岐

講演者1:山根崚(Ryo Yamane)
タイトル:手のひら大、小型クランプ式の10 GPa級、ブリッジマン型誘電率測定セルの開発
Title: Technical development of hand-size high pressure apparatus for dielectric measurements beyond 10 GPa
圧力は原子間距離を直接かつ連続的に縮めることのできる唯一の外場である。原子間距離の縮みを高圧下でX線、中性子などで直接的に観察する構造研究は、主にダイヤモンドアンビルセル(DAC)によって100万気圧以上でも既に技術確立がなされており広く普及している。一方で、圧力によって誘起される物性研究に関しては、物性測定用のセルセットアップ(コイルや電極など)を試料空間に仕込む必要があるので難易度が上がる。
現在、3万気圧まではピストンシリンダーによって高圧の専門家でなくても簡単に発生でき、常圧実験とほぼ同様の幅広い物性測定の選択肢が存在する。しかしそれ以上の高圧となると、マルチアンビル装置やDACなどを用いた測定手法が主要であるが、それぞれ装置が巨大であることやセルセットアップがその試料空間の微細さから職人芸的で歩留まりが良くないなど高圧素人にはなかなか手の出せない測定である。
本研究は、10万気圧(10 GPa)級のコンパクトかつ取り扱いやすい高圧セルの普及を目的としている。北川らが、ブリッジマン型アンビルを用いた手のひら大クランプセルをNMR測定向けに開発しており(Kitagawaら、2012)、試料空間も比較的大きく(~7 mm2)取り扱いやすい。本研究の目標は私が博士課程で行ってきた誘電率、電気伝導度の測定セットアップをこの小型クランプセルに組み込み、測定できる物性の選択肢を広げることにある。当日の発表では、圧力発生の実情(最大7.5 GPaほど)やセットアップのノウハウなどを発表する。

講演者2:槇納好岐(Yoshiki Makino)
タイトル:コンドライトの金属包有物からみた初期太陽系の水分布
Title:Distribution of water in the early solar system inferred from metal inclusions in chondrites
太陽系最初期の原始惑星系円盤期に集積したコンドライト隕石は、太陽系惑星の形成過程や多様性を理解する上で重要な物質である。コンドライトに見られる物質科学的多様性は、各コンドライトグループが、太陽系でそれぞれ異なる場所、あるいは異なる物理化学的条件下で形成・集積されたことを反映していると考えられている。
一方で、コンドライトの多様な化学組成と、コンドライトの形成過程、あるいは形成領域を整合的に説明するモデルは構築できていない。太陽系最初期に起こった物質化学進化、特にコンドライト隕石の化学組成を決定づける化学分別プロセスの解明は、太陽系の化学進化を理解する上で非常に重要である。
本博士研究ではコンドライトの金属包有物に注目し、太陽系の化学進化について制約を試みた。金属包有物は主に鉄とニッケルの合金であり、ほぼ全てのコンドライト隕石中に普遍的に含まれている。加えて、金属鉄は様々な微量元素を含み、広い温度範囲にわたって安定であることから、微量元素組成を元に金属包有物が形成した当時の物理化学的環境を推定できる。
博士研究の一部では、初期太陽系における水の分布と進化について研究した。
水は惑星の固体成分(氷)を構成し、元素の化学形態(酸化還元状態)を決定づけるため、太陽系の化学進化を考える上で重要である。
コンドライト中の金属鉄は一般に様々な微量元素(W, Re, Os, Ir, Moなど)を含む。一方で、金属鉄の微量元素組成は形成時の水の量(H2O/H2)に応じて、気相中で酸化物の化学形態が安定化するMoやWが欠乏することが知られている。
そこでコンドライト中の金属包有物の網羅的に分析を通して、太陽系最初期の熱的プロセスによって金属鉄が形成したと考えれられる期間(約400万年)における水の分布を調べた。
その結果、LLコンドライトの金属鉄はで太陽組成よりも最大100倍程度水が多い環境下で形成したことが示唆された。この結果と先行研究で報告されている形成領域、物理モデルを合わせると、LLコンドライトはH2O/H2が上昇するスノーラインの内縁部での形成したと考えられる。以上の結果から、金属包有物の形成が生じる最初期の太陽系において、原始地球や原始火星形成領域に太陽組成よりも多い水蒸気が存在し、酸化的な環境が形成されていたことを示唆する。
セミナーでは、本研究の結果と先行研究による結果を交えて発表し、太陽系の水の分布の進化について議論したい。