2019年12月20日

Date: 16:00-18:00, Friday, December 20, 2019
Place: 3F, Lecture room, Main Chemistry Build.
Speaker:Katsutoshi Aoki, Riko Iizuka

日 時:2019年12月20日(金)16:00-18:00
場 所:化学本館3階講義室
講演者:青木勝敏、飯塚理子

講演者1:青木勝敏(Katsutoshi Aoki)
Title: Neutron diffraction study of the crystal and magnetic structures of metal hydrides at high temperatures and high pressures
 これまで高温・高水素圧下で合成された金属水素化物の結晶構造と物性は主として放射光を利用した回折・分光測定によって調べられてきた。溶解水素に起因する格子体積膨張、超多量空孔形成、磁性発現、超伝導転移など金属水素化物に特有な状態、現象が数多く見出されている。しかしながら、最も重要な金属格子内の水素原子位置と水素濃度(組成)はX線回折では決定できず、高温高圧合成後に低温常圧下で回収された水素化物を使って限定的に調べられていたに過ぎない。
 大強度陽子加速器施設(J-PARC)の物質生命科学実験施設(MLF)に超高圧中性子回折装置(PLANET)が整備されたのを機会に金属水素化物の中性子回折実験を開始した(2012年)。中性子は重水素(D)原子から強い散乱を受けることから、金属重水素化物を使って金属格子内のD原子の占有位置と占有率を精度良く決定することができる。また、中性子は磁気モーメントからも散乱を受けることから磁気秩序構造を調べる上で強力なプローブとなる。
 本セミナーでは化学をバックグランドとする聴講者が大半を占めることを念頭において、金属水素化物研究の平易な解説を試みる。その後、J-PARCで展開している金属水素化物の結晶・磁気構造研究の現状を時間が許す範囲内で紹介する。

講演者2:飯塚理子(Riko Iizuka)
タイトル:高温高圧X線および中性子その場観察による鉄ー含水シリケイト系の軽元素の振る舞い
Title: Behavior of light elements on Fe-hydrous silicate system from in-situ X-ray and neutron observations under high pressure and high temperature
 現在の地球中心コアの主成分である鉄には、軽元素(S, Si, O, C, H など)が溶け込んでいると考えられており、どの軽元素がどの程度存在するのかという疑問に対して、これまで数多くの実験的研究がなされてきた。候補の1つである水素は、水を介した酸化還元反応を経て鉄に鉄水素化物として取り込まれる。しかし水素は高圧下でしか有意に鉄に溶け込まない上に、従来のX線を用いた測定手法では軽い水素を直接検出できなかった。また、鉄が硫黄を含むと融点はさらに下がることが知られている。本研究では、鉄の密度低下と融点降下に絶大な影響を及ぼしうる水素と硫黄の2つの軽元素に着目し、鉄ー含水シリケイトに硫黄を加えた系に対して高温高圧実験を行い、鉄の水素化反応に対して硫黄が及ぼす影響について調べた。
 初期試料は原始地球を模擬した組成として、Fe, SiO2とMg(OD)2(やMgO)の混合粉末にSを加え、モル比で2:1:1-5wt%Sになるよう調製した。放射光X線による回折およびイメージング観察はつくばのPF-ARにて、中性子回折測定は東海村のJ-PARCにて、それぞれの高圧ビームラインで行った。実験で回収した試料は全て微小部X線回折測定とSEM-EDS分析を行い、反応生成物と元素の分布を調べた。結果として、硫黄と水が共存する系において、硫黄は鉄の水素化を阻害することが分かった。固体の鉄に水素と硫黄が優先的に溶け込まれるという本結果を踏まえて、地球進化の初期段階について最後に考察する。