2020年6月19日

Date: 16:00 – 18:00, Friday, June 19, 2020

日時: 2020年6月19日(金)16:00 – 18:00

Speaker: Yuta Kemuyama
講演者: 煙山 優太
タイトル: ユカタン半島沖の掘削試料の鉄スペシエーションの地球地球化学


 約6550万年前(中生代白亜紀末)、メキシコ・ユカタン半島北部沖に巨大天体が衝突し、直径約180kmのチクシュルーブ・クレーターが形成され、環境の大激変によって恐竜をはじめとする大量の生物が絶滅した。世界各地の堆積岩を用いた研究により、衝突イベントや生物の絶滅・復活の過程が明らかになってきたが、爆心地での試料を用いた研究は稀である。2016年春の統合国際深海掘削計画第364次研究航海(IODP Exp. 364: International Ocean Discovery Program Expedition 364)によって、クレーター内部から海底下506m〜1335mの約830mにおよぶ柱状試料が掘削された。上部約120mは衝突後の約1600万年間に堆積した石灰岩が主要な岩相であるが、数m間隔で数cm〜数十cm厚の有機炭素(Corg)に富む黒色頁岩との明暗互層が発達する。一般に、黒色頁岩の形成には、海洋表層(浅海)での生物生産の増大と、それに伴う沈降有機物粒子フラックスの増大、その有機物の酸化的分解による海中溶存酸素の消費による嫌気的水塊の形成が必要となり、有機物の保存が促進される。特に深度610m付近に約5500万年前のPETM (Paleocene–Eocene Thermal Maximum:暁新世—始新世の最暖期) とEECO (Early Eocene Climatic Optimum:始新世温暖化極大期) を示す黒色頁岩層が発達するが、その形成がどのように始まり終わったのかに関しての理解は進んでいるとは言えず、黒色頁岩の形成環境の地球化学的制約も進んでいるとは言えない。
 本研究では、IODP Exp. 364の掘削コアの深度506.31m〜598.03mのPETMやEECO以降の黒色頁岩の69試料を用いて、鉄のスペシエーション(存在化学形態)分析によって、黒色頁岩の形成に至った堆積環境の酸化還元状態の変遷を探究することを目的とした。
 地球表層環境では、鉄は周囲の酸化還元状態に影響されて形態を変え、二価または三価で存在する。大陸風化や海底の熱水活動によって海洋に供給された鉄は、堆積し、続成作用によって酸化還元状態の影響を受けながら鉄酸化物・磁鉄鉱・黄鉄鉱・菱鉄鉱、等へ化学形態を変える。砕屑性のケイ酸塩鉱物に含まれる鉄は、一般に存在形態を変えない。以上の存在形態の相対的存在度が、堆積時の酸化還元状態を反映する。本研究では上記の試料をPoulton (2011)の方法を用いて鉄酸化物(Feox)・磁鉄鉱(Femag) ・鉄炭酸塩(Fecarb) の3形態に分画し、合わせて1N HCl 24hの抽出によって得られる鉄(FeHCl)を抽出し、試料の硫黄の存在度から黄鉄鉱の存在度を計算で求めた。各抽出溶液中の鉄の濃度は、Ferrozine法により吸光光度計を用いて求めた。
 本発表では、以上の鉄のスペシエーション分析に加えて、本研究室の先行研究より同一試料の主要・微量元素の存在度との相関の有無の検討を行い、堆積環境に関する議論を行う。

Speaker: Yuichiro Mori
講演者: 森 悠一郎
タイトル: 遷移層下での深発地震の発生メカニズムを高圧下での一軸圧縮変形実験と放射光その場観察・AE同時測定を組み合わせて探る

 深発地震は深さ約300-700kmで発生する地震であり、およそ100年前から沈み込むスラブ内部で観測されてきた(e.g. Wadati., 1928. Frolich., 2006)。しかし、地下深くでは温度上昇の為に延性的に、圧力上昇の為にクラック発生が抑制される為、~30kmで起こる地震とは発生メカニズムを異にしている(Frolich.,1989)。スラブ内部の温度が周囲のマントルよりも低いために平衡条件での相転移深さを越して存在するオリビンの非平衡相転移が深発地震の発生メカニズムとするのが主流(e.g. Kirby et al., 1996. Riggs and Green., 2005)であるものの、アナログ物質で行った低圧実験にとどまっており(Schubnel et al., 2013)、より高温高圧下で同じことが起きるかは確認されていない。そこで本研究では出発試料にオリビンの端成分であるfayalite(Fe2SiO4)を用いて高温高圧下で変形実験を行った。スラブ内部の準安定オリビンの環境を模擬するために低温でオリビンを圧し、スピネル安定領域にオリビンのみ存在する状態を作り出す。その後昇温・変形させてスピネル相転移をさせた。放射光その場観察による2次元X線回折により相同定・圧測定・応力測定を行った。また試料上下に金箔を入れることによって、ラジオグラフィーから歪速度の測定も可能にした。高圧装置にはSPring-8に設置のD-DIA型変形装置(Wang et al.,2003)を用いており、2段目アンビルの裏に圧電素子を付けることでAE活動を同時観測している。今年、深発地震の発生メカニズムを対象にしたシリケートオリビンの相転移に伴うAE活動の観測の論文が発表された(Officer et al., 2020)ものの、力学的特性の観察に難がある。そこで、本発表では放射光その場観察を用いた実験結果、AE測定手法、回収試料の組織観察に関して紹介する。