2017年4月28日

場 所:化学本館5階会議室
講演者:平田岳史
タイトル:古典的隕石学に別れを告げる新しい質量分析法の開発

隕石にはナノメートルからcmサイズに至るまでの様々な大きさの粒子が集積したものである。中でも、CAI(calcium-aluminium rich inclusion)は、太陽系内で最も古い年代を持つことから、太陽系形成時の物質科学的情報を保持したものと考えられている。またコンドルール(chondrule)は、それがコンドライトの名前の由来となったように、未分化な隕石に普遍的に含まれ、その形成過程は太陽系が経てきた物質進化を考える上で重要であると考えられている。さらに、エコンドライト(achondrite)や隕鉄(ironmeteorite)といった分化した隕石は、マグマ過程を経験しているため、母天体内での金属核・天体内部成層構造の形成と進化を考える上で重要であると考えられている。こうして、隕石学は太陽系の進化を考える上で非常に大きな貢献を果たしてきた。その一方で、隕石中にはまだその形成過程がよく分かっていない物質が多く含まれる。その代表例がマトリックス(matrix)である。
マトリックスは、CAIやコンドルールの間を埋める細粒の鉱物であり、その平均的な化学組成は、太陽系の化学組成を反映していると考えてよい。主要な構成鉱物はFeに富むオリビンであり、CV3コンドライトでは約40%の体積を占める。オリビンの多くはエンスタタイトやFe-Ni硫化物などの水熱変性により形成されたと考えられているが、マトリックスを構成する他の鉱物も含め、その成因は不明である。一方で、マトリッ
クスは大きさ数nmから1μm程度までの様々のサイズの岩石粒子の集合体であり、その一つ一つが異なる起源をもつ。さらに最近の研究ではマトリックス構成鉱物のほぼ100万個に1個程度の割合で太陽系形成以前の情報を記憶する粒子(前駆太陽系物質、プレソーラー粒子)が含まれていることも明らかになった。これら前駆太陽系粒子を統計的に調べることで、太陽系を構成する物質の起源や、さらにそれらの基本粒子を構
成する元素がいつ、どのように形成されたのかの全く新しい知見が引き出せる。さらにマトリックス内には種々のアミノ酸や簡単なペプチドなどの様々な有機化合物が含まれている。マトリックス構成物質と有機化合物の分布状態を調べることで、太陽系内でどのように有機化合物が形成・進化したかに関しても新しい知見を引き出せるものと期待できる。そこで地殻化学東館研究Gでは、英知を集約し、マトリックスの分析に向けた全く新しい質量分析法の開発に取り組むこととした。このプロジェクトは大きく二つのアプローチからなり、一つはナノサイズの鉱物の超高速同定・年代分析のための質量分析計の開発であり、もう一つは、元素と生体分子の同時イメージング分析法の開発である。後者に関しては、槇納君が人生をかけて開発すると公言しているので詳細は牧野君に任せるとして、本発表ではナノサイズ粒子の超高速分析技術の開発について述べる。ナノ粒子を対象とするため元素拡散などの不確定要素を含み、なおかつ技術的にも極めて挑戦的な課題である。しかし、難しい課題であるからこそ取り組む価値があるのだと考えている。