2018年7月13日

Date: 16:00-18:00, Friday, July 13, 2018
Place: 3F, Lecture room, Main Chemistry Build.
Speaker: Riko IIZUKA-OKU

日 時:2018年7月13日(金)16:00~18:00
場 所: 化学本館3階講義室
講演者:飯塚 理子

講演者:飯塚 理子(Riko IIZUKA-OKU)
タイトル:高温高圧実験による鉄-ケイ酸塩-水系の多軽元素の探索
Title: Searching for multi light elements in iron-silicate-water system using high pressure and high temperature experiments: Implications for the Earth’s evolution

要旨:
現在の地球中心コアには、Fe-Ni合金の他に複数の軽元素(H, C, O, Si, S)が含まれていると考えられている。有力候補の1つである水素は、X線で検出できないこと、脱圧時に鉄から抜けてしまうなどの実験上の制約から、その固溶量の直接的な定量化は困難とされていた。近年、パルス中性子源と大型6軸プレスを用いた高温高圧下での中性子回折測定により、鉄のfcc相への水素固溶量が決定された (Machida et al., 2014; Iizuka-Oku et al., 2017)。とりわけ、地球の始源物質を模擬した鉄–ケイ酸塩–水系の出発試料において、含水鉱物が脱水してできた水と鉄とが酸化還元反応を経て、4 GPa, 700°Cの固体状態の鉄でも有意な水素化が起きることが明らかになった。原始地球形成の初期段階において、水素が他の軽元素に先駆けて鉄へ溶け込み鉄水素化物となった後に、他の軽元素も徐々に取り込まれ、重力分離を起こして沈降していく鉄と共にコアへ軽元素が運ばれたことが示唆される。地球の進化過程の解明に向けて、純粋な鉄ではなく、鉄水素化物とケイ酸塩間における複数の軽元素の分配を調べることが今後重要である。そこで本研究では、FeとFeSの共晶点が1000°C以下と比較的低く、固体の鉄にも僅かながらに溶けることが知られている硫黄に着目し、水素Hと硫黄Sの2元素を含んだ鉄–ケイ酸塩–水系の試料で高温高圧実験を行い、鉄の水素化反応に対して硫黄が及ぼす影響について調べた。
初期試料として、モル比1:1のSiO2とMg(OD)2(やMgO)に、FeやS(またはFeS)の割合を変えて加えた混合粉末を調製した。マルチアンビルプレスにおける加圧は6-6方式とし、これまでに開発・改良を進めてきたスチールジャケット付きのWC製アンビルを2段目アンビルに使用した。圧媒体には角を落とした立方体のCr-doped MgO焼結体を用い、ZrO2スリーブの断熱材とグラファイトヒーター、パイロフィライト製のプレガスケットを組み合わせたセル構成とした。まず、東大物性研にある500トンプレスを用いて~6 GPa, 1650°Cまでのクエンチ実験を複数回行い、温度によるFe-FeS固溶体の有無と相関係を調べた。つくばKEK, PF-AR (NE7A, NE5C)での放射光X線を用いた高温高圧下その場観察により、X線回折パターンから4-6 GPaの高圧下の昇温過程での生成物を同定し、新たに開発した高解像度のX線イメージングカメラシステムを用いて試料が全溶融し鉄が凝集して球になる様子をリアルタイムで観察した。さらに、J-PARCの高温高圧ビームラインPLANET (BL11) にて6軸プレス圧姫を用いた高温高圧下での中性子その場観察を行い、~6 GPa, 550°Cと700°Cでの鉄化合物中に含まれる水素量を見積もった。それぞれの実験で回収した試料についてX線回折測定とSEM-EDS分析を行い、反応生成物と元素の分布を調べた。
セミナーでは、クエンチ実験と、X線および中性子によるその場観察の結果について順に紹介し、硫黄が含まれる系での反応過程と硫黄共存による鉄の水素化への影響について多角的に考察する。最後に現状の問題点から改善すべき点を挙げ、今後の展望を述べる。